2026年1月からスタート! 下請取引の適正化を図る『取適法』とは

25.10.28
ビジネス【企業法務】
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独占禁止法を補完する特別法として、およそ70年前の1956年に制定された「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が改正されました。
そして、2026年1月1日からは名称も新たに「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)」、通称「取適法(とりてきほう)」として施行されます。
この改正は、価格交渉の義務化、手形払いの禁止など、事業者にとって実務に直結する重要な内容が盛り込まれています。
今回の改正の背景や具体的な改正のポイント、企業が今から準備すべき内容を解説します。

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改正の背景と適用対象の拡大を把握する

中小事業者の保護を目的とした下請法に基づく取引ルールは、長らく日本の産業を支えてきました。
しかし、近年の労務費、原材料費、エネルギーコストなどの上昇を受け、製造業に限らず物流やサービス分野でも取引構造がより複雑化し、コスト上昇分が適切に転嫁されず、下請事業者が過大な負担を強いられるケースが増えてきました。
こうした背景を踏まえ、下請法の抜本的見直しを行い、下請取引の適正化を図るため、2026年1月から「取適法」が施行されることになりました。
この取適法により、中小事業者が安心して取引できる環境の整備と、公正な競争を通じた経済全体の持続的成長が期待されています。

では、改正のポイントを一つずつ確認しておきましょう。
まず、大きな改正点は、用語の変更です。
これまで「下請法」という呼び名は、業務を受注する側を「下請」と表現することにより、取引上の立場の差を強調する印象がありました。
新しい取適法では「中小受託事業者」という言葉を使用し、より中立的かつ尊重のある表現に改めています。
また、業務を委託する親事業者は「委託事業者」、下請代金も「製造委託等代金」という呼び名に変更されます。
こうした用語の改正は、取引関係を対等なパートナーシップと位置づけるという理念面での大きな転換を示しています。

次に適用対象の拡大も大きな改正点です。
従来の下請法では資本金基準に基づき、親事業者・下請事業者の関係が規定されていましたが、取適法では新たに従業員数基準が導入されました。
これにより、資本金規模は大きくないものの、実質的に影響力を持つ企業も委託事業者(親事業者)に含まれる可能性が高まります。

具体的には、「製造委託」「修理委託」「特定運送委託」などにおいては、委託事業者の従業員数300人超、中小受託事業者の従業員数300人以下の場合が適用対象に追加されます。
また、「情報成果物作成委託」「役務提供委託」(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く)においては、委託事業者の従業員数100人超、中小受託事業者の従業員数100人以下の場合が適用対象に追加されます。

さらに上記の通り、荷主と物流事業者間の取引である「特定運送委託」が新たに対象となりました。
このように、これまで適用外だった業種においても規制が及ぶ可能性があるため、対象範囲を正確に確認することが大切です。

価格協議の義務化と手形払いの禁止に留意

今回の改正で追加された代表的なものが「価格協議の義務化」と「手形払いの禁止」です。
従来も価格転嫁を阻害する行為は問題視されていましたが、改正ではコスト上昇時に委託事業者が協議の場を設ける義務を負うことが明文化されました。
たとえば、協議に応じないことや、協議において必要な説明をしないこと、一方的な代金の額の決定などが禁止されます。

また、手形払いは資金繰りを不安定にさせる要因として問題視されてきましたが、今回の改正で事実上禁止されます。
これにより、中小受託事業者は安定したキャッシュフローを確保しやすくなる一方、委託事業者にとっては資金管理の見直しが必要となります。

改正を前に、企業は取適法の適用対象となる取引を正しく洗い出し、自社が委託事業者として責任を負う立場にあるのかを確認することが必要になります。
そして、価格交渉の手順や記録を整備し、取引先との協議内容を記録として残せる体制を構築することが求められます。

取適法の施行は、これまでの取引のあり方そのものを見直す大きなきっかけとなります。
特に委託事業者にとっては、新しい義務に対応するだけでなく、取引先との関係をどう築いていくかという視点が欠かせません。
今から計画的に準備を進め、取適法を遵守した取引を実現することが、すべての企業にとって取り組むべき喫緊の課題といえるでしょう。


※本記事の記載内容は、2025年10月現在の法令・情報等に基づいています。