年次有給休暇『計画的付与制度』の活用法と導入時の留意点

25.08.26
ビジネス【労働法】
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2023年の年次有給休暇(以下、有給休暇)の取得率は65.3%と過去最高を記録しましたが、政府が目標として掲げる70%には到達していません。
そのようななか、有給休暇の取得を促進し、従業員のワークライフバランスを向上させる制度として注目を集めているのが、有給休暇の「計画的付与制度」です。
この制度は、労使協定を締結することで、企業が有給休暇の取得日をあらかじめ設定できるというものです。
従業員はためらうことなく有給休暇を取得でき、企業は計画的な事業運営が可能になるなど、さまざまなメリットのある計画的付与制度について解説します。

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制度利用で有給休暇の取得率向上に期待

有給休暇の「計画的付与制度」とは、労働基準法第39条に基づいて設けられた制度で、使用者は有給休暇のうち5日を超える部分について、労使協定に基づいて、計画的に休暇日を定めることができます。
たとえば、年10日の有給休暇が付与される従業員の場合、自由取得分の5日を除いた残りの5日が計画的付与の対象となり、年間20日付与される従業員であれば15日が対象となります。

2019年4月から施行された「有給休暇の取得義務化」により、使用者は年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、毎年5日以上の有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。
しかし、企業によっては、「忙しくて休めない」「同僚に迷惑をかけたくない」などの理由から、従業員がなかなか有給休暇を取得しきれない現状があります。
有給休暇の取得率向上は、多くの企業にとって長年の課題でした。

計画的付与制度を導入するメリットの一つに、この有給休暇の取得率向上があります。
従業員は会社が休暇日を定めることで、気兼ねなく休暇を取得できるようになります。
十分な休暇が取れれば、心身のリフレッシュを図ることができ、疲労回復やストレス軽減にもつながるでしょう。
また、有給休暇の取得が進むことで、従業員のワークライフバランスが向上し、企業に対するエンゲージメントやロイヤルティが高まることも期待できます。

一方、企業にとっては、従業員の休暇日が事前に明確になるため、業務の年間計画や月間計画を立てやすくなります。
これにより、人員配置や生産スケジュールを最適化し、業務の停滞や遅延を防ぐことができます。特に、後述する一斉付与方式であれば、業務を完全に停止させる期間を設けることで、設備の保守点検や社員研修などを効率的に実施することも可能です。
計画的な休暇取得は、業務の属人化を防ぎ、組織全体の生産性向上につながります。

つまり、有給休暇の計画的付与制度は、労働者の権利である有給休暇の取得を促し、企業側にとっても計画的な業務運営を可能にする、労使双方にメリットのある制度といえます。

業種や業務内容によって最適な方式を選択

計画的付与制度には、主に3つの付与方式があります。
事業場全体の休業による「一斉付与方式」は、企業全体あるいは部署全体で一斉に有給休暇を取得させる方式です。
代表的なものとしては、夏季休暇や年末年始休暇、ゴールデンウィークの飛び石連休を計画的付与による連続した休暇にするケースです。
製造業などで生産ラインを停止させる場合や、オフィス業務が完全に停止できる企業などでは非常に効果的な方法です。

班・グループ別の「交替制付与方式」は、サービス業や流通業など、事業を完全に停止することがむずかしい企業に適した方式です。
従業員を複数の班やグループに分け、それぞれのグループが交替で計画的に有給休暇を取得するというものです。
たとえば、Aグループが「10月1日から7日」まで、Bグループが「10月11日から17日」までといったように、時期をずらして有給休暇を付与します。
これにより、従業員の休暇取得を促進しつつも、必要な人員を確保し、事業運営を継続することが可能になります。

年次有給休暇付与計画表による「個人別付与方式」は、従業員一人ひとりの事情や希望を考慮し、個別に有給休暇の取得計画を立てる方法です。
たとえば、従業員の誕生日や結婚記念日、家族の行事に合わせて有給休暇を付与したり、閑散期に集中的に取得させたりするケースがあげられます。
企業側は、従業員からの希望を募り、業務に支障が出ない範囲で調整しながら「年次有給休暇付与計画表」を作成し、この計画表に基づいて、個人の休暇日を設定することになります。

どの方式も、企業の業種や業務内容、従業員の働き方などによって向き不向きがあるため、自社に最適な方式を選択することが重要です。

また、計画的付与制度の重要なポイントは、有給休暇の付与日数のうち、最低5日間は従業員が自由に取得できる日として残しておかなければならないことです。
計画的付与の対象となるのは、あくまで5日を超える部分のみです。
この5日は、病気や慶弔など、従業員個人の急な事情に対応するために確保されるべきものであり、労使協定で指定することはできません。

いずれにせよ、計画的付与制度は従業員にとって有給休暇の取得日を会社によって決められるという側面があるため、導入に際しては従業員からの反発や不満が生じる可能性もゼロではありません。
制度導入を検討するのであれば、その目的が、従業員の有給休暇の取得促進であることを丁寧に説明し、従業員の理解と協力を得るようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。