老朽化する建物が急増! コストを抑えて医療施設を建て替えるには

25.08.05
業種別【医業】
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現在、全国の多くの病院や診療所が施設の老朽化という問題に直面しています。
2023年の「病床機能報告」をもとに行なったNHKの調査によると、法定耐用年数である築40年を超える病棟を持つ病院が、全国で1,600施設以上に上ることがわかりました。
医療提供の質を維持し、患者や医療従事者の安全を守るためには、これらの老朽化した施設の建て替えが不可欠です。
しかし、多額の費用が必要となる建て替えは、病院にとって非常に大きな負担であり、資金調達や計画の策定は容易ではありません。
老朽化の進む医療施設について、コストを抑えながら建て替える方策を探ります。

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老朽化する医療施設が建て替えられない理由

日本には、築40年以上の古い病棟を持つ医療施設がたくさんあります。
なかでも築50年以上の病棟を持つ病院は全国で500施設超、築60年以上の病棟を持つ病院も100施設以上あるという調査結果があります。

このような古い医療施設は、構造的な安全性はもちろんのこと、医療機器の導入や最新の感染症対策に対応できないといった機能面での問題も抱えています。
古い医療施設のなかには、バリアフリー化が不十分なケースも少なくありません。
電気設備や給排水設備なども老朽化が進むと、故障のリスクが増大し、安定した医療提供に支障をきたす可能性も出てきます。
こうした状況は、患者の快適性や医療従事者の労働環境にも影響を及ぼし、ひいては病院全体の医療の質にも関わる問題となります。

しかし、問題を抱えていることがわかっていても、簡単に建て替えを行うことはできません。
多くの医療施設が老朽化した建物を使い続けている背景には、いくつかの深刻な課題があります。

まず、多くの病院や診療所の直面している問題として「赤字経営」があげられます。
医療費の抑制や少子高齢化による患者数の変化、そして人件費の上昇など、医療機関の経営を取り巻く環境は非常に厳しく、慢性的な赤字に陥っているところも少なくありません。
このような状況下では、たとえ建物の老朽化が進んでいたとしても、多額の投資が必要となる建て替えに踏み切ることは極めて困難です。

次に、「建築資材の高騰」も大きな要因です。
近年、国内外の情勢不安や円安、物流コストの増加などさまざまな要因が重なり、鉄骨やコンクリート、木材などの建築資材の価格が著しく上昇しています。
そのため、これまでと同じ規模の建物を建てようとしても、高額な費用が必要となり、建て替えのハードルが一段と高くなっています。
また、建設業界全体の人手不足も深刻で、人件費も高騰傾向にあるため、工事費用全体が高止まりしている状況です。

総事業費の見直しと進行管理でコスト削減

赤字経営や建築資材の高騰といった厳しい状況下で、費用を抑えつつ施設を建て替えるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。

まず、最も重要なのは総事業費の徹底的な精査です。
建て替えプロジェクトは、建物の建設費だけでなく、設計費、設備の購入費、仮設施設の費用、移転費用、そして予備費など、多岐にわたる費用が発生します。
これらの費用を一つひとつ細かく洗い出し、本当に必要なものとそうでないものを区別することで、無駄を排除し、全体のコストを削減することができます。

また、建て替えプロジェクトのスケジュールを遅らせないことも、結果として費用を抑えることにつながります。
建築資材の価格は日々変動しており、建設業界の人件費も上昇傾向にあるため、計画が長引けば長引くほど、当初の予算をオーバーしてしまうリスクが高まります。
そのため、設計段階から施工、そして竣工・移転に至るまで、綿密なスケジュールを組み、それを厳守する体制づくりが必要です。

同時に、こうした一連のプロジェクトを担う外部業者の選定も重要な要素です。
設計事務所や建設会社を選ぶ際には、実績や提案内容だけでなく、コストパフォーマンスや対応の迅速さ、そして病院建築における専門知識を持っているかどうかも確認する必要があります。
複数の業者から見積もりを取り、比較検討することはもちろんですが、単に価格が安いという理由だけで選ぶのではなく、品質や信頼性も総合的に判断することが大切です。

さらに、決して多いケースではありませんが、建物の所有者と医療機関の経営者を分けてしまうのも、方法の一つです。
医療法人が建物をみずから所有するのではなく、不動産会社などの専門業者に建物の建て替えや保有を任せ、医療法人は賃料を支払って利用するという仕組みにすることで、多額の初期投資を抑えることができます。
ただし、継続的な賃料の負担や設備投資の自由度の低下、利害が対立するリスクといったデメリットも考慮しなければいけません。

老朽化した医療施設の建て替えは、日本の医療の未来を左右する喫緊の課題です。
多くの医療機関が厳しい経営状況や高騰する建築費という問題に直面するなかで、いかにして費用を抑えて建て替えを実現していくかは大きなテーマでもあります。
必要に応じて、医療施設建設に特化したプロジェクトマネジメント会社など専門家の力も借りながら、建て替えの計画を練っていきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。