介護業界における「静かな退職」の原因と対策とは!?

25.08.05
業種別【介護業】
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少子高齢化社会が進むなか、どの企業も新たな人材の採用に苦戦しています。
また、転職の一般化による雇用の流動化により、介護業界では新規人材の確保と既存従業員の定着をどのように進めていくかという課題に直面しています。
このような状況下において、ここ最近では「静かな退職」という新たなキーワードが出現しています。
今回は、介護現場での静かな退職の兆候や傾向、そしてその対策について解説します。

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広がりつつある「静かな退職」とは?

「静かな退職」とは、仕事に対するやりがいや情熱を失い、日々与えられた業務を必要最低限のみこなす働き方の状態をいいます。
実際に退職するわけではないものの、キャリアアップや昇進・昇格を目指さず、すでに退職を決めた従業員のような冷めた精神状態で働くことを指しています。

この言葉は2022年頃のアメリカにおいて、仕事中心のライフスタイルへの反発心からZ世代を中心に注目された概念です。
特に、仕事とプライベートの時間を明確に分け、ワークライフバランスを重視する人に多い傾向があります。
米国のキャリアコーチがSNSに投稿したことをきっかけに話題となり、日本でも広まりました。

静かな退職は、「仕事をするために生きる」という考え方ではなく、「生活をするために最低限の仕事をする」という考え方であり、この傾向は特に若年層に見られます。

アメリカの調査会社であるギャラップ社が発表した『State of the Global Workplace 2023』によると、世界の労働者のうち約59%が静かな退職状態にあると報告しています。
また、同社の『2023年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状』などによると、日本の労働者で仕事に熱意を持ち、職場に積極的に関わっているエンゲージメントの高い社員はわずか5%と世界で最も低い結果となっており、約72%が静かな退職状態にあるとされています。
さらに、株式会社マイナビが実施した『正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)』では、「できることなら働きたくない」と回答した人が56.9%、「静かな退職をしている」と回答した人が48.2%と、日本でも静かな退職の傾向が広がってきていることがうかがえます。
そして、介護現場においても、こうした傾向が顕著に現れつつあります。

「静かな退職」の原因と影響

介護現場において「静かな退職」が起こる原因は、以下のようなことが考えられます。

・人材不足と業務の過多
介護職は常に人材不足であり、個人の業務量は増える一方です。
そのような状態が続くと、心身ともに疲弊し、仕事へのモチベーションが維持できなくなります。

・厳しい労働環境
介護業務は、労働環境としても身体的・精神的な負担が大きく、夜勤やシフト勤務などによる不規則な生活が続くと、職員の意欲が著しく低下します。

・人間関係によるストレス
介護現場では、利用者やご家族、同僚、上司との人間関係が重要です。
職場内のコミュニケーションが不足すると、ストレスが蓄積され、職場に対する不満が高まります。

・給与や待遇面への不満
介護職は、業務の負担が大きい割に、他業種と比較して給与水準が低めである傾向にあり、待遇面が不十分だと不満につながることがあります。

・将来への不安
介護業界は、高齢化に伴い需要が増している一方で人材が不足しており、将来的な展望に不安を抱き、転職を検討する人も少なくありません。

静かな退職状態では、以下のような兆候が見られます。
・指示された業務や定型の業務しか行わない
・新しい提案やアイデアに消極的である
・必要最低限のコミュニケーションしか取ろうとしない
・チームへの貢献意欲が低下している
・ほかのスタッフのサポートや情報共有に消極的である
・業務時間外の活動やキャリアアップへの意欲が低下している

では、静かな退職に対して、どのような対策が有効なのでしょうか。
この状態は、はっきりと目に見えるものではないため、未然に防ぐことが重要で、以下のような対策が効果的と考えられます。

・労働環境の改善
業務負担を軽減するために、現場の実態を把握し、人員配置や業務分担の見直し、適切な休憩・休日の確保、残業の抑制などを徹底する必要があります。

・コミュニケーションの活性化
コミュニケーションを促進し、職場内の信頼関係を築くことが重要です。
定期的な個別面談やメンター制度の導入などが有効です。

・給与や福利厚生の見直し
モチベーション向上のために、給与のベースアップや昇給制度、インセンティブの導入、賞与査定の透明化、福利厚生の充実などを検討しましょう。

・キャリアパスの明確化
職員に将来の成長イメージを持たせるために、昇進・昇格の道筋やスキルアップ支援制度を整備することが求められます。

・メンタルヘルスケアの充実
ストレスを蓄積させないよう、社内外の相談窓口の設置、メンタルヘルス研修の実施など、精神的なサポート体制の準備も重要です。

介護業界における静かな退職は、個人のモチベーションの低下のみならず、チーム全体のパフォーマンスやサービスの質にも影響を及ぼします。
この問題にいち早く気づき、現場の声に耳を傾けながら職場環境の見直しを図ることが、離職防止や職員の定着、ひいては質の高い介護サービスの維持につながります。
静かな退職は組織の危機のサインでもあります。
早期発見・早期対応を心がけ、持続可能な職場づくりを進めていくことが今、求められています。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。