2027年9月から引上げ予定! 高所得者の『厚生年金保険料』への影響

25.07.08
ビジネス【税務・会計】
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2027年9月から、高所得者の厚生年金保険料が段階的に引き上げられるという制度改正が予定されています。
いわゆる高所得者の「厚生年金保険料引上げ」は、一部の従業員だけではなく、企業の負担も増すことになり、給与計算や労務管理などにも影響が出る可能性があります。
制度改正は将来の年金制度の安定化を目的としており、企業としては変更内容を正確に理解し、適切な対応を準備していく必要があります。
無用な混乱を避けるためにも、早めの対策を講じておきましょう。

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保険料引上げの狙いと引上げのスケジュール

少子高齢化が進む日本では、現役世代の減少と高齢者人口の増加により、年金制度を支える人が減り、年金を受け取る人が増えるという構造的な問題を抱えています。
つまり、将来的にこれまで以上の保険料収入が必要になります。
その対策として、高所得者からより多くの保険料を徴収しようというのが、2027年9月から実施予定の「厚生年金保険料引上げ」の狙いです。

また、現役世代のなかでも所得の高い層に、より多くの保険料を負担してもらうことで、所得格差による将来の年金額の差を縮め、年金制度の公平性を高めるという意図もあります。
まとめると、将来的な年金制度の安定化と、世代間の負担の公平性を確保するというのが、高所得者の厚生年金保険料引上げの目的ということになります。

現在の厚生年金の保険料は「標準報酬月額」によって32段階(第1級~第32級)に区分されており、上限も設けられています。
これまでは、一定以上の高給与を得ている従業員であっても、保険料は上限額に基づいて計算されていました。
標準報酬月額とは、厚生年金保険料や将来の年金額を計算する基礎になるもので、毎月の給与や通勤手当や残業代などの手当をもとに、「標準報酬月額表」に照らして等級が決められます。
給与ではなく、標準報酬月額をベースにするのは、昇給や減給などによって毎月の保険料が変わるのを防ぐために標準化する必要があるからです。

現在の厚生年金の標準報酬月額の上限額は最高で第32級の65万円と定められており、たとえば、毎月の給与が100万円の従業員であっても、標準報酬月額は65万円として保険料を算出します。
しかし、制度改正により、この上限額が段階的に引き上げられることになる予定です。

対象となるのは、賞与を含まない年収798万円以上の高所得者であり、標準報酬月額が上限の65万円の従業員ということになります。

まず、2027年9月に、第一段階として第33級が新設され、上限が65万円から68万円に引き上げられます。
次に、2028年9月には、第34級が新設され、上限が68万円から71万円に引き上げられます。
最後は、2029年9月に、第35級が新設され、上限が71万円から75万円に引き上げられます。

これらはあくまで予定ですが、厚生労働省は3段階での引上げを検討しており、今後の動きを注視しておく必要があります。

企業側の保険料負担増と従業員への対応策

上限額の変更は、従業員だけでなく、企業にも影響を与えることを理解しておく必要があります。
労使折半が原則である厚生年金保険料において、従業員の保険料が増加すれば、それに伴い企業の負担額も増加することになります。
たとえば、第一段階の65万円から68万円に上限が引き上げられた場合、該当する高所得者がいれば、労使の双方が年額で3万円以上の負担増になる見込みです。
当然、高所得の従業員を多く抱える企業ほど、この影響は大きくなるでしょう。

また、従業員の給与計算や社会保険の手続きにおいても、新たな上限額に対応したシステムの改修や事務作業の変更が必要となる場合があります。
企業においては、制度変更の内容を正確に把握し、適切な準備を進めることが求められます。

さらに、対象となる従業員からは、手取りの収入の減少に対して、不満が出るかもしれません。
企業としては、今回の制度変更の趣旨や影響について、従業員に対し丁寧に説明し、理解を求める必要があります。

ただし、これらの取り組みを行うには、まだ時間的な余裕があります。
今、企業として行うべきことは、厚生年金保険料引上げの対象となる従業員を特定し、制度変更後の保険料負担額を試算することです。
試算によって、企業全体の社会保険料負担がどの程度増加するのかを予測し、今後の人件費計画に反映させましょう。

厚生年金保険料における企業負担分の増加は、企業の人件費の増加に直結します。
今回の制度変更が中長期的な経営計画にどのような影響を与えるのかを検討し、必要に応じて予算の見直しや経営戦略の修正を行う必要もあるかもしれません。
従業員の理解と協力を得ながら、引上げ開始予定の2027年9月までに準備を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。