道端で拾った財布はどうすべき? 知っておくべき法律知識とは
誰しもが一度は経験するかもしれない「落とし物」や「拾い物」。
スマートフォンや財布などの貴重品を落としたときの焦りや、誰かの落とし物を見つけたときの対応のむずかしさは、多くの人が共感するところでしょう。
しかし、落とし物や拾い物に関する法的な知識を持っていないと、思わぬトラブルを招くことがあります。
たとえば、拾った財布を届けずに持ち帰ることは「遺失物等横領罪」に該当し、犯罪となり得ます。
今回は、拾った側・落とした側それぞれの視点から、知っておくべき基本的な法律知識と正しい対応方法を解説します。
拾ったら『届け出義務』があるって本当?
落とし物は近年増加傾向にあります。
警視庁によると、2023年に東京都内の警察署などに届けられた落とし物は約440万点で、過去最多を記録しました。
全国でも同様の傾向があり、2023年は約2,978万点とこちらも過去最多を更新しています。
これは、スマートフォンやワイヤレスイヤホンなど、小型化された電化製品が増えていることも一因と考えられます。
落とし物を拾った場合、法律上どのような義務があるのでしょうか。
「遺失物法」では、落とし物を拾った場合、速やかに警察署や交番に届け出る義務があると定められています。
この義務に違反した場合、遺失物等横領罪(刑法254条)として処罰の対象になることがあります。
実際に、「現金入りの財布を拾って持ち帰り、中身を使ってしまった」などの理由で逮捕された事例もあります。
「困っていたから使ってしまった」という言い訳は、法的には通用しないのです。
ただし、駅や商業施設など「施設内」で落とし物を拾った場合は、その施設の管理者に届け出ることで、法律上の義務を果たしたことになります。
その後、施設側が警察への届け出を代行することになります。
では、拾った落とし物の持ち主が見つからない場合はどうなるのでしょうか。
落とし物を警察に届け出た後、3カ月間経過しても所有者が現れない場合には、拾得者(拾った人)に所有権が移ることになります。
以前はこの期間は6カ月とされていましたが、2007年の法改正により3カ月に短縮されました。
なお、この権利を得るためには、拾ってから7日以内に警察に届け出ていることが条件です。
期限を過ぎると、拾得者としての権利は失われます。
また、施設内で拾ったものについては、お礼金が発生した場合、施設側と拾得者で折半するのが一般的です。
さらに、遺失物法第28条によれば、拾得者は持ち主から落とし物の価値の5~20%の報労金を受け取る権利があります。
報労金は法的には請求する権利がありますが、実際には支払われないことも少なくありません。
落とした場合の対処のポイントとは?
反対に、自分が物を落としてしまった場合はどうすればよいのでしょうか。
まず重要なのは、速やかに最寄りの警察署や交番に「遺失届出書」を提出することです。
遺失届をしておけば、誰かが拾って警察に届けた際に、持ち主である自分に連絡が来る可能性が高まります。
特に身分証明書やクレジットカード、ICカード、鍵などは悪用されるリスクが高いため、紛失に気づいたらすぐに対応することが必要です。
クレジットカードなどはカード会社への利用停止の連絡も忘れずに行いましょう。
落とし物が見つかったケースでの対応も知っておくと安心です。
自分で落とし物を見つけた場合は、すでに遺失届を出していれば、その解除を申請します。
誰かに見つけてもらった場合は、身分証明書や印鑑を持参して警察署へ行き、落とし物の返還を受けます。
近年は、スマートフォンやタブレットなどの電子機器の紛失も増えています。
これらの端末には、紛失時に位置情報を特定できる機能が搭載されていることが多いため、事前に設定しておくことをおすすめします。
iPhoneの「探す」機能やAndroidの「デバイスを探す」機能を活用すれば、落とした端末を地図上で確認できるほか、遠隔操作でロックをかけたり、重要なデータを消去したりすることも可能です。
また、定期的にスマートフォンのデータをバックアップしておくことも重要です。
万が一、端末が見つからなかった場合でも、大切な写真や連絡先などのデータを失わずに済みます。
クラウドサービスを利用すれば、自動でバックアップを取ることができるため、設定しておくと安心でしょう。
落とし物や拾い物は、対応を誤れば思わぬトラブルを招く可能性があります。
善意で拾ったつもりでも、届け出をしなければ違法行為とみなされることもあります。
一方、落とし物をした側も、きちんと遺失届を出すなどの適切な対応をすれば、見つかる可能性が高まります。
「届け出をする」という行為は、単なる手続きではなく、社会の信頼と安全を守る第一歩です。
※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。