改正雇用保険法が施行!『教育訓練休暇給付金』の創設にどう対応する?
2024年5月10日に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律(改正雇用保険法)」は、多様な働き方を支えるための「セーフティネットの構築」および「人への投資の強化」を目的としており、改正内容は雇用保険の対象拡大や教育訓練支援など、多岐にわたります。
改正法は順次施行されますが、特に2025年10月1日から施行される「教育訓練休暇給付金」の創設は、企業にとって今後の労務管理や人材育成戦略を考えるうえでの重要なポイントとなります。
今回は、教育訓練休暇給付金について対応すべきポイントに焦点を当て、その具体的な内容を解説していきます。
雇用保険法改正の背景にある社会的な状況
今回の雇用保険法の改正は、日本の労働市場が直面するいくつかの重要な変化に対応するためのもので、その背景には少子高齢化の加速による労働力人口の減少や働き方の多様化、育児と仕事の両立支援の必要性の高まりといった要因が深く関わっています。
従来の雇用保険制度は、主に失業した労働者への経済的な支援と再就職の促進を目的としてきましたが、現在は労働者のキャリア形成をより積極的に支援することが求められており、経済的な変化の激しいなかで、企業が持続的に成長していくための環境整備なども課題とされています。
こうした社会的な状況を踏まえ、改正雇用保険法は失業者のセーフティネットとしての機能に加え、労働者の主体的な能力開発の支援や育児休業の取得促進、経済的支援の拡充といった、より幅広い視点から制度を見直すものとなっています。
企業は改正の趣旨を理解し、社会の変化に対応した柔軟な働き方や人材育成の仕組みを構築していかなければいけません。
そんな多岐にわたる改正のなかでも、2025年10月1日から施行される「教育訓練休暇給付金」の創設は、特に「人への投資の強化」という側面の強いものとなっています。
労働者が給付金を受けるための要件
教育訓練休暇給付金は、労働者がキャリアアップなどのために、休暇を取得して学習に専念することを国が経済的に支援するためのものです。
これにより、従業員のスキルアップを促し、企業の生産性向上や競争力強化につなげることを目的としています。
具体的には、要件を満たした従業員が、教育訓練を受けるための休暇を自発的に取得した場合に、基本手当(失業手当)に相当する給付金が国から支給されます。
定められた要件はいくつかありますが、対象となるのは、被保険者期間が5年以上で、休暇開始前の2年間に「みなし被保険者期間」が12カ月以上ある従業員に限られます。
みなし被保険者期間とは、被保険者期間に相当する期間のことで、休暇を開始する日を被保険者でなくなった日(資格喪失日)とみなして計算されます。
対象となる従業員が、労働協約や就業規則などにより設けられた制度に基づき、自発的に30日以上の教育訓練休暇を取得した際に、失業手当と同額の支給が受けられます。
給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかです。
また、給付の対象となる教育訓練は、厚生労働大臣や職業安定局長が指定する教育訓練および大学・高等専門学校・専修学校または各種学校が行う教育訓練に限られ、たとえば、趣味のための講座やカルチャーセンターで行われている教室などは対象外となります。
制度導入にあたり企業が行うべき環境の整備
教育訓練休暇給付金の創設は、企業にとって従業員のスキルアップの促進や人材の定着、企業競争力の強化などのメリットをもたらします。
従業員が主体的に能力開発に取り組むことを奨励することによって、専門性の高い人材育成につながりますし、学習意欲の高い従業員のキャリア形成を支援することは、エンゲージメントを高めることにもなるでしょう。
当然、スキルアップした従業員の増加は、企業の生産性向上やイノベーション創出を促進し、競争力の強化になります。
ただし、この教育訓練休暇給付金を利用するための環境を整備しないと、効果は限定的なものになってしまいます。
まず、企業側は社内において、教育訓練休暇に関する制度をきちんと設計する必要があります。
就業規則や関連規程を見直し、必要に応じて整備を進めていきましょう。
有給・無給、取得可能な日数、申し出の期限、申請手続きなどを明確化することで、使いやすい制度にしていかなければいけません。
また、従業員が安心して教育訓練に専念できるよう、業務の調整や代替要員の確保など、両立支援策も検討する必要があります。
教育訓練休暇給付金は、原則として、教育訓練休暇の期間や目標、内容などについて合意を得たうえで、企業は教育訓練休暇の取得を希望した従業員の賃金支払状況や休暇期間などを、管轄のハローワークに届け出る必要があります。
さらに、該当の従業員を事業主が解雇予定でないことを明記した証明書類も用意しなければいけません。
このように、教育訓練休暇給付金の利用は、労使の協力関係が必要不可欠となります。
従業員の学び直しが組織の成長につながるということをよく理解して、環境の整備を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。