患者との「ラポール」を形成するために必要なスキルとは

25.07.01
業種別【医業】
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医療現場におけるラポールとは、医療従事者と患者が互いに信頼し合い、安心して感情の交流ができる関係性を指します。
この信頼関係が、患者の治療への積極的な参加を促し、ひいては治療効果の向上にもつながります。
しかし、「ラポール形成が重要だ」と理解していても、具体的にどのようなスキルが必要で、どのように磨けばよいのかということを体系的に学ぶ機会は少ないかもしれません。
今回は、患者の状態をより深く理解するための、ラポールの形成に必要なスキルについて解説します。

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患者とラポールを築くことの重要性と効果

フランス語で「橋を架ける」という意味の「ラポール」は心理学用語で、まさに人と人との間に築かれる「橋」のような関係性を指します。
ラポールは人材育成やセラピーなどでも使われますが、特に医療の現場では、医師と患者の間に生まれる相互の信頼と安心感に基づいた良好な関係を意味します。
この関係性が構築されることで、患者は医師に対して心を開きやすくなり、自身の症状や悩み、不安などを率直に表現できるようになります。
たとえば、診察室に入ったときに、まるで長年の友人のように自然と会話が始まるような感覚は、ラポールが築かれている状態といえるでしょう。

ただし、ラポールは一朝一夕に築かれるものではありません。
患者の抱える病気への不安や、医療に対する漠然としたおそれを理解し、それらを和らげるような関わりを積み重ねていくなかで、徐々に育まれていくものです。

そして、ラポールを育むことで、医療面接における正確な情報収集に役立たせることができます。
患者との信頼関係があると、症状に関する些細な変化や普段の生活習慣、心理的な負担など、診断や治療に必要なあらゆる情報を率直に話してくれるようになります。
もし、ラポールが形成されていなければ、患者は羞恥心や不安から、重要な情報を隠してしまったり、正確に伝えられなかったりするかもしれません。
正確な情報がないと、適切な診断ができず、治療の遅れや誤りにつながる可能性があります。

また、ラポールは治療の「アドヒアランス」の向上に大きく貢献します。
アドヒアランスとは、患者が治療方針の決定に同意し、主体的に治療に参加することを意味しています。
医師との間に信頼関係が築かれている患者は、医師の指示や説明を前向きに受け入れ、治療に対するモチベーションを高く保つことができます。
たとえば、患者のアドヒアランスが良好であれば、服薬指導を受けた際にも「この先生が言うことだから」と納得して、きちんと薬を飲み続けます。
逆に、信頼関係が希薄な場合は、治療内容に疑問を抱きやすくなったり、指示通りに行動しなかったりする可能性があります。

ラポールの形成に必要な傾聴と共感

患者とのラポールを形成するためには、いくつかの重要なスキルと、それを日々の診療のなかで意識的に磨き続けることが不可欠です。

まず最も基本的なスキルとして、傾聴(アクティブリスニング)があげられます。
傾聴には、患者の言葉の裏にある感情や意図、伝えたいメッセージを積極的に理解しようとする姿勢も含まれます。
患者が話している間は、目を見て頷いたり、相槌を打ったり、「なるほど」「そうなのですね」といった共感の言葉を挟むことで、「あなたの話を真剣に聞いていますよ」というメッセージを伝えます。
話が終わった後には、話した内容を要約して確認することで、理解が合っているかを確認し、患者が「自分のことを理解してくれている」と感じさせることが重要です。

また、共感(エンパシー)のスキルも欠かせません。
共感とは、患者の感情や立場を理解し、その気持ちに寄り添うことです。
患者の「つらい」「不安だ」といった感情を、「そうですね、それはお辛いですね」「ご不安なお気持ち、よくわかります」といった言葉で受け止めることから始まります。
決して「大丈夫ですよ」と安易に否定したり、励ましたりするのではなく、まずはその感情をそのまま受け止めることが大切です。
患者の視線に立って話を聞くことで、患者は「この先生は自分のことをわかってくれる」と感じ、より深いレベルでの信頼感が生まれます。

さらに、丁寧でわかりやすい説明もラポール形成には不可欠です。
専門用語を避け、患者が理解できる言葉で病状や治療方針、検査結果などを丁寧に説明するよう心がけましょう。
説明の際には、患者の疑問や不安を解消するために、質問を促す姿勢も大切です。
「何かご不明な点はありませんか?」「ほかに心配なことはありませんか?」といった問いかけは、患者が安心して質問できる雰囲気をつくり出します。

これらのスキルを磨くためには、診療のなかで意識的に実践することに加えて、日々の振り返りが非常に有効です。
診察が終わった後に「今日の患者さんとのやり取りはどうだっただろうか?」「もっとよい伝え方はなかったか?」「患者さんは何を考えていたのだろうか?」と自問自答する時間を作りましょう。

患者とのラポール形成に必要なスキルは、医師としてのキャリアを通じて常に磨き続けるものです。
これらのスキルを習得し、実践することで、患者との間に深い信頼関係を築き、より質の高い医療を提供できるようになります。
ラポールの形成が不十分だと感じているのであれば、まずは日常の患者への接し方を振り返ってみることをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。