建築制限が緩和される特例『総合設計制度』とは
建設業者が都市部における大規模なプロジェクトを手掛ける際、建築物の高さや容積、日影規制など、多岐にわたる制約が事業計画に影響を与えることがあります。
しかし、そうした厳しい建築制限のなかでも、一定の条件を満たすことで制限の緩和が受けられる「総合設計制度」という特例制度があります。
この特例は市町村長や都道府県知事といった特定行政庁の許可を受けて適用されるもので、建築事業者であればその内容を把握しておかなければいけません。
制度の基本的な考え方や適用を受けるための要件などについて解説します。
公共性の高い魅力的な都市を作るための制度
「総合設計制度」とは、大規模なマンションやビルなど、一定以上の規模の建物を建てる際に、ゆとりある空地を確保したり、一般の人が利用できる広場を設けたりすると、建築基準法で定められた建物の高さや容積率などの制限が緩和される特別な許可制度です。
この制度は、建築基準法第59条の2に規定されており、都市の魅力を高めるためのインセンティブとして位置づけられています。
通常の建築では、敷地の面積や形状、用途地域といったさまざまな要素によって、建てられる建物の大きさや高さ、配置などが厳しく制限されています。
しかし、都市の再開発や大規模な建築プロジェクトにおいては、これらの画一的な規制だけでは、必ずしも質の高い都市空間を生み出すことにはなりません。
たとえば、規制にあわせて建物を建てただけでは、歩行者のためのスペースが確保されなかったり、避難経路が損なわれたりするなど、さまざまな問題が生じる可能性があります。
そこで、総合設計制度では、建築主がみずからの敷地内に公共的なオープンスペースを設けるなどの周辺環境によい影響を与える計画に対して、特別に規制を緩めることを認めています。
ちなみに、誰もが自由に利用できる広場や緑地、通路などの公共的なオープンスペースを「公開空地」と呼びます。
総合設計制度の適用を受けるための要件
総合設計制度の適用を受けるためには、ただ単に大規模な建築物を計画するだけでなく、一定の厳しい条件を満たす必要があります。
これらの条件は、公開空地の確保や周辺環境への配慮など、主に都市の公共性向上に貢献することを目的として設定されています。
適用要件や緩和内容は各自治体によって異なるものの、一般的な適用要件としては、商業地域で500平方メートル以上が必要など、「一定規模以上の敷地面積を確保すること」があげられます。
総合設計制度は、基本的に大規模な開発を対象としているため、多くの場合、広大な敷地が必要です。
これは、ゆとりある公開空地を確保するためには、それなりの広さの敷地が必要となるためです。
狭い敷地では、十分な公開空地を確保することがむずかしく、制度の趣旨に合致しないと判断されることも少なくありません。
そのため、「公開空地を確保できること」も要件になることがほとんどです。
また、「敷地内の一部緑地化」や「敷地内のバリアフリー化」「防災機能の強化」なども要件に定められている場合があります。
これらの要件は、計画する建築物の規模や立地、自治体の都市計画の方針によって、細分化されたり、独自の要件が追加されたりすることがあります。
総合設計制度の適用を検討する際には、早い段階で所管の自治体の担当部署と綿密な協議を行い、具体的な要件を確認することが重要となります。
容積率や高さ制限などの緩和の内容
総合設計制度の最大の魅力は、通常、厳しく定められている建築基準法の規制が緩和される点にあります。
緩和されることで、より自由度の高い、経済的にもメリットの大きい建築計画を実現できる可能性が広がります。
総合設計制度において、特に多い緩和の一つが「容積率の緩和」です。
容積率は、敷地面積に対する建築物の延床面積の割合を示すものですが、都市計画によって厳しく定められています。
しかし、総合設計制度が適用されると、公開空地の面積に応じて、この容積率が割り増しされることがあります。
これにより、同じ敷地面積でも多くの床面積を確保できるようになり、分譲マンションであれば戸数を増やせたり、オフィスビルであれば賃貸面積を増やせたりと、事業収益の向上が期待できます。
次に「高さ制限の緩和」も重要な緩和の一つです。
建築物の高さは、日照権や景観、航空機の航路など、さまざまな理由から厳しく規制されています。
特に、都市部では隣接する建物への日影の影響を考慮した日影規制が適用されることが多く、これが建物の高さを制限する大きな要因となります。
総合設計制度では、公開空地の確保や周辺への配慮がなされた計画であれば、周囲への影響が緩和されると判断され、通常の高さ制限を超えた高層建築物の建設が認められることがあります。
こうすることで、都市のランドマークとなるような象徴的な建築物を建てることも可能になります。
さらに、自治体によっては「建ぺい率の緩和」や「斜線制限の緩和」なども緩和の内容に含まれていることがあります。
こうした緩和は、単に建物を大きくするだけでなく、より効率的な空間利用や、デザインの自由度を高めることにもつながります。
ただし、緩和される内容は、各自治体の条例や特定行政庁の判断によって異なるため、計画の初期段階から詳細な確認が必要です。
また、申請手続きも複雑であり、特定行政庁との綿密な事前相談や、専門的な知識と経験に基づいた図書作成が必要になります。
制度の適用を受けるのであれば、建築士や都市計画コンサルタントなどの専門家とも相談しながら、準備を進めていくことをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。