相続人不存在とは? 誰も相続しない場合の不動産と財産の行方

25.07.01
業種別【不動産業(相続)】
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近年、少子高齢化や核家族化が進行し、親族関係の希薄化が問題視されています。
その影響で、亡くなった方の財産を継ぐ相続人がいない「相続人不存在」のケースが増加しています。
2023年度には、相続人のいない遺産が国庫に帰属した金額が1,000億円を超えたとの報告もあります。
特に不動産が管理されないまま放置されることが多く、空き家問題や近隣トラブルを引き起こす原因にもなっています。
今回は、「相続人不存在」とは何か、相続人がいない場合の財産の行方について解説します。

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『相続人不存在』の意味と急増する背景

「相続人不存在」とは、相続開始時に相続人が存在しない、または全員が相続放棄をして相続人がいなくなった状態を指します。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
まず、亡くなった方(被相続人)に法定相続人がいない場合です。
被相続人に、配偶者と、血族相続人(子、直系尊属、兄弟姉妹)が存在しない場合、相続人不存在となります。
たとえば、未婚で子どもがなく、両親も兄弟姉妹もすでに亡くなっている場合などです。

次に、法定相続人全員が相続放棄をした場合です。
相続放棄とは、相続人が家庭裁判所へ申述して相続の権利を放棄する手続きです。
たとえば、被相続人が多額の借金を抱えていて、相続財産がマイナスとなる場合などに、相続放棄が選択されることがあります。

相続人不存在が急増している背景には、現代社会の構造的変化があります。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、単身世帯が全世帯の3割を超え、年々増加傾向にあります。
特に高齢者の単身世帯が増えていて、「おひとりさま」で最期を迎える方が多いことが、原因の一つとなっています。
また、晩婚化や非婚化の影響で、子どもを持たない人が増え、親族との関係も希薄化しています。
その結果、兄弟姉妹とも疎遠になり、相続人として名乗り出る人がいないケースも増えています。

この「相続人不存在」の問題は、管理されない財産が社会に与える影響が懸念されています。
特に放置された不動産は、空き家などによる地域の治安悪化や景観の悪化、固定資産税などの税金の滞納による行政負担の増加、近隣住民との境界紛争や、さらには雑草や害虫による衛生問題を引き起こす原因となっています。
また、不動産の所有者が不明確だと、将来的な土地利用や再開発にも支障をきたします。

相続人不存在の財産の行方と必要な手続き

相続人不存在の場合、放置された財産は最終的には国庫に帰属することになります。
ただし、その過程では特定の手続きが必要です。

まず、相続人がいない場合の財産は、「相続財産法人」として管理されます。
この法人は、被相続人の死亡時に成立し、相続財産の管理や清算を目的としています。
その管理のために、家庭裁判所は「相続財産清算人」を選任します。
その選任申立ては、利害関係人または検察官が行います。
利害関係人には、債権者、受遺者(遺言で財産を与えられる人)、特別縁故者(被相続人と特別な関係があった人)などが該当します。
2023年の民法改正では、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」と名称変更され、財産の保存管理を行う新制度として「相続財産管理」制度が設けられました。
相続財産清算人は、債務の弁済や残余財産の処理を担当します。

相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は相続人捜索の公告を行います。
公告期間は従来10カ月でしたが、改正後は6カ月に短縮されています。
この期間に相続人が現れなければ、相続財産清算人は手続きを進め、必要であれば不動産の価値を評価し、売却します。
売却代金は、被相続人の債務の弁済に充てられ、その後に特別縁故者への財産分与の手続きが行われます。
特別縁故者への分与がない場合、または残余財産がある場合、最終的にその財産は国庫に帰属します。

こうした事態を避けるためには、生前の対策が重要です。
遺言書を作成すれば、法定相続人がいなくても、遺言によって財産を譲りたい人(受遺者)を指定できます。

また、「死後事務委任契約」も有効な手段です。
これは、自分の死後に行なってほしい事務(葬儀の手配、ペットの世話、財産の処分など)を第三者に委託する契約です。
生前に信頼できる人や専門家と契約を結んでおくことで、死後の不安を軽減することができます。

相続人不存在の場合、財産の管理者を明確にすることが不可欠です。
相続人がいない状況では、家族構成の変化や将来を見据えた慎重な準備が必要です。
適切な対策を講じることで、財産の円滑な清算や不動産の有効活用が可能になり、不要な社会的トラブルを回避することができます。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。