引っ越し時も申請が必要?『住所・氏名の変更登記』の義務化とは
不動産登記において、これまで所有者の住所や氏名が変更になった場合でも、その変更登記は任意とされてきました。
しかし、2021年の不動産登記法の改正により、住所や氏名に変更が生じた際には、速やかに登記を申請することが義務づけられることになりました。
いわゆる「住所等変更登記の義務化」は、2026年4月1日から始まります。
詳しい内容や、変更登記を行わないことで生じる問題、具体的な手続きなどについて解説します。
所有者不明土地の解消などが義務化の狙い
2021年に改正された不動産登記法に基づき、2026年4月1日以降は、不動産の所有者の住所や氏名に変更があった日から2年以内に、その旨の登記を申請することが義務づけられます。
この義務化の背景には、所有者の情報が常に最新の状態に保たれることで、地方自治体による公共事業の円滑な実施のためなど所有者の探索作業を社会全体として合理化する狙いがあります。
義務化の対象となるのは、土地や建物といった不動産の所有者(登記名義人)の氏名や住所に変更があった場合です。
たとえば、引っ越しや結婚・離婚などで住所や氏名が変わった場合には、忘れずに変更登記の申請を行いましょう。
もし、正当な理由なく義務に違反した場合は、5万円以下の過料が科される可能性があります。
さらに、注意したいのは、2026年4月1日の義務化より前に変更があった場合も対象になるということです。
義務化より前に氏名や住所に変更があれば、施行日から2年後の2028年3月末までに変更登記を申請する必要があります。
つまり、現在すでに登記情報と現況が異なっている場合は、速やかに申請の手続きを行う必要があるということです。
住所等変更登記を怠ったままでいると、登記官が義務違反を把握した場合、登記官から登記を行うよう「催告書」が送られてきます。
催告書に書かれた期限までに登記や申出をしないと、登記官は裁判所に対して義務違反の通知を行います。
ただし、相続人からの説明により、登記しないことに「正当な理由がある」と登記官が判断した場合は、裁判所への通知は行われません。
通知を受けた裁判所が審査し、必要と判断された場合にペナルティとして過料が科される可能性があるので気をつけましょう。
住所などを変更しないことで生じるトラブル
不動産登記の住所などの変更を怠ると、過料が科されるだけではなく、さまざまなトラブルに発展する可能性があります。
たとえば、不動産を売却する際、登記簿上の住所や氏名が古い情報の場合、住所・氏名変更登記をしないと所有権移転登記ができません。
住所変更登記に必要な書類を集めるのに時間がかかり、所有権移転の手続きに手間と時間がかかります。
場合によっては、売買契約の締結が遅れたり、白紙になったりするケースも考えられます。
さらに、相続が開始した際にも、登記簿上の所有者の情報が古いと、相続人を特定するための手続きが複雑になることがあります。
また、固定資産税の納税通知書や防災に関する重要な情報なども、古い住所に送られてしまい、必要な情報を受け取ることができなくなるかもしれません。
こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、住所や氏名に変更があった際には、速やかに変更登記の手続きを行うことが重要です。
スマート変更登記という便利なサービス
変更登記の申請は、登記申請書と住所などを変更した事実がわかる必要書類を不動産の所在地を管轄する法務局の窓口に提出するという流れになります。
変更登記の申請は窓口へ提出するほかに、郵送やオンラインでも可能ですが、より簡易的な「スマート変更登記」(職権による住所・氏名の変更登記を行う仕組み)という方法もあります。
スマート変更登記とは、不動産の所有者が事前に「検索用情報」の申出を行なっておくと、法務局が定期的に住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)を照会して、住所や氏名の変更の有無を確認し、所有者の意思を確認後、職権で住所・氏名の変更登記をするというサービスです。
「検索用情報」とは、所有者の氏名、氏名の振り仮名、住所、生年月日、メールアドレスなどです。
ちなみに、2025年4月21日以降、新たに不動産の所有権を取得する場合、所有権移転登記と同時に「検索用情報」の申出をする仕組みがスタートしています。
照会によって、住所や氏名の変更を把握した法務局は、変更登記をしてよいかを確認するメールを所有者本人に送信し、本人が変更を希望した場合は、法務局の職権において、自動的に変更登記が行われます。
申出は無料で、一度手続きをしておけば、以降は住所や氏名の変更があるたびに本人の了解を得たうえで変更登記が行われるため、義務違反に問われることもなくなります。
ちなみに、法人の場合は、会社法人等番号の登記を行うことで、スマート変更登記を利用することができます。
もちろん、スマート変更登記を利用せずに、従来通りの手続きで変更登記を行うこともできますし、相続問題が絡むなどの複雑なケースは、司法書士に相談することをおすすめします。
登記の専門家である司法書士に依頼した場合、費用はかかりますが、手続きをスムーズに進めることができます。
※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。