中小企業も無関係ではない?『セキュリティ・クリアランス制度』とは

25.06.24
ビジネス【企業法務】
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2025年5月16日に「重要経済安保情報保護活用法(重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律)」が施行されました。
この法律の軸となるのが、経済安全保障分野における「セキュリティ・クリアランス制度」の創設です。
この制度は、サプライチェーンの再構築や先端技術の保護といった日本経済の強化を目的としたものであり、企業が今後の事業展開や成長戦略を考えるうえでは、制度を深く理解しておく必要があります。
大企業だけではなく、中小企業にも影響が及ぶ可能性のあるセキュリティ・クリアランス制度について、その概要を解説します。

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日本における経済安全保障とは

近年、国際情勢は複雑さを増し、経済活動においても「安全保障」が重要視されるようになってきました。
サイバー攻撃の高度化や諸外国による先端技術の囲い込み、サプライチェーンの脆弱性などが顕在化するなかで、一国だけでは対応のむずかしい課題が山積しています。
このような状況を踏まえ、日本でも経済活動の基盤となる重要技術やインフラを保護し、経済的な脅威から国を守るための総合的な取り組みが進められています。

具体的には、重要物資の安定的な供給の確保、基幹インフラの強靭化、先端技術の育成・保護、国際的な連携強化などです。
こうした一連の取り組みのことを「経済安全保障」と呼び、その一環として導入されるのが、「セキュリティ・クリアランス制度」です。
この制度は、政府が保有する特に重要な経済安全保障に関する情報、いわゆる「重要経済安保情報」を取り扱うことができる事業者について、事前に適格性を評価し、認証する仕組みです。

まず、国が申請者である事業者の情報管理体制や組織運営状況などを調査し、情報漏洩のリスクがないと認められた個人や法人の事業者に対して、セキュリティ・クリアランスが付与されます。
認証を受けた事業者はクリアランスを保有することで、これまでアクセスできなかった重要経済安保情報へのアクセスが可能になり、その情報を活用した事業活動や研究開発などができるようになります。

この制度の導入により、重要経済安保情報が適切に管理され、機密性の高い情報を取り扱う事業者の信頼性が向上することになります。
また、政府と民間企業がより緊密に連携し、経済安全保障に関わる課題に対応していくための基盤になるとも考えられています。

対象事業者と中小企業への影響

日本には、すでに特定の秘密情報を保護するための「特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)」に基づくセキュリティ・クリアランス制度に相当する制度が存在しています。
特定秘密保護法に基づくこの制度は、主に防衛や外交といった安全保障分野における機密情報を対象としたもので、情報へのアクセス権限を持つ者を限定し、厳格な情報管理体制を構築することを目的としています。
今回の重要経済安保情報保護活用法に基づくセキュリティ・クリアランス制度は、この既存の制度を参考にしつつ、経済安全保障という新たな領域に対応するために創設されたものだといえます。

では、具体的にどの情報が重要経済安保情報に該当し、どの業種の事業者がセキュリティ・クリアランス制度の影響を受ける可能性があるのでしょうか。
たとえば、電力、ガス、水道、通信、金融、運輸といった国民生活や経済活動に不可欠なインフラを提供する事業者は、サイバー攻撃や物理的な破壊行為から守るべき重要な情報を保有しているため、適合事業者となる可能性があります。
また、半導体、レアアース、医薬品などの製造、供給に関わる重要物資のサプライヤーも、対象になる可能性があります。
ほかには、AI、量子技術、バイオテクノロジーなど、経済成長や国際競争力の源泉となる先端技術の研究開発を行う事業者なども対象に含まれます。

インフラや重要物資、先端技術などの分野で事業を行なっている事業者は、政府からセキュリティ・クリアランスの取得を求められるか、もしくは自主的に取得を検討する必要があります。

こうしたセキュリティ・クリアランス制度は、大企業だけのものだと思われがちですが、中小企業への影響も無視できません。
たとえば、サプライチェーンを通じた影響です。
大企業がセキュリティ・クリアランスを取得し、重要経済安保情報を取り扱うなかで、そのサプライヤーである中小企業に対しても、同様のセキュリティレベルを求める可能性があります。
ある重要部品を製造している中小企業が、取引先の大企業からセキュリティ・クリアランスの取得を求められるといったケースがあるかもしれません。

さらに、中小企業が持つ独自の技術やノウハウが経済安全保障上重要な情報とみなされる可能性もあります。
特に、ニッチな分野で高い技術力を持つ中小企業は、適合事業者となる可能性があるので、留意しておかなければいけません。

ほかにも、新たな事業展開を考えるうえで、セキュリティ・クリアランスが参入の条件となる分野が出てくる可能性もあります。

セキュリティ・クリアランス制度は、日本の経済安全保障を強化するための重要な基盤となるものです。
中小企業にとっては負担となる制度かもしれませんが、同時に新たな成長の機会になる可能性も秘めています。
制度の運用については、新たに提示されるガイドラインや規定などでより明らかになっていくとみられているため、今後の動きを注視していきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。