派遣契約を解除する際に派遣先企業がやるべきこと

25.06.24
ビジネス【労働法】
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派遣契約の終了は、当事者である派遣労働者だけでなく、派遣先企業にとっても重要な局面を迎えることを意味します。
「労働者派遣法」は、派遣労働者の保護を目的として、派遣契約の締結から終了に至るまで細かなルールを定めています。
これらのルールを守らずに派遣契約を解除してしまうと、派遣元企業や派遣労働者との間でトラブルが生じたり、法的責任を問われたりするおそれがあります。
派遣契約の解除を適切に行うために、派遣先企業が理解しておくべき基本を解説します。

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派遣元企業と派遣先企業と派遣労働者の関係

「派遣労働」とは、人材派遣会社などの派遣元企業が雇用している労働者を、派遣先企業の指揮命令によって労働させる働き方です。
この形態において、雇用契約は派遣元企業と派遣労働者の間で結ばれますが、実際の業務指示や日常的な労務管理は派遣先企業が行うという、三者による関係が成立します。
たとえば、派遣労働者への給与の支払いや社会保険の手続きなどは雇用契約を結んでいる派遣元企業が行い、現場での業務指示や労務管理などは派遣先企業が行います。

派遣労働は特殊な労働形態であるため、派遣労働者の権利保護や、派遣先・派遣元企業の責任を明確にするため「労働者派遣法」という法律が定められています。
1986年に施行された労働者派遣法は、何度かの改正を経て、派遣契約の内容や派遣期間の制限、派遣先企業の義務などを細かく規定しており、派遣に関わるすべての企業はこれらの遵守が求められます。
派遣契約は、この労働者派遣法に基づいて結ばれるものであり、法律に違反する内容の契約は無効とされます。

そして、派遣先企業が特に注意すべきなのが、派遣契約を終了させるタイミングです。
人材派遣契約の終了には、「契約期間満了」と「契約の途中解除」の二つのケースがあります。

契約期間満了による派遣契約の終了

契約期間満了は、あらかじめ定められた派遣契約の期間が終了することで契約が終了するケースを指します。
派遣契約は一般的に、3カ月や6カ月単位など一定の期間を定めて締結されます。
派遣元企業は、通常、契約終了の1カ月前程度を目安に、派遣先企業および派遣労働者に契約更新の意向を確認します。
両者が更新を希望すれば契約は継続され、いずれかが希望しないのであれば、満了をもって契約は終了となります。

ただし、契約が更新された場合でも、労働者派遣法には、「個人単位の派遣期間制限」が設けられています。
このルールは、同一の派遣労働者が課や係などの同一の組織単位で就業できる期間を原則3年に制限するもので、雇用の安定や直接雇用への転換を促進する狙いがあります。
派遣先企業が3年を超えて同じ派遣労働者を受け入れるには、派遣元企業による無期雇用化、または、派遣先企業による直接雇用などを検討する必要があります。

契約の途中解除による派遣契約の終了

契約期間満了に対して、契約の途中解除は、契約期間中になんらかの理由により契約を終了させるケースです。
これには、派遣先企業や派遣元企業の都合による解除、または派遣労働者の都合による退職などが含まれます。
契約の解除は予期せぬ事態によって発生することが多く、特に派遣先企業には慎重な対応が求められます。
原則として、派遣先企業は派遣契約を途中で解除することができないとされています。
なぜなら、労働者派遣法では、派遣先の都合による一方的な契約解除は、派遣労働者の雇用の安定を損なうおそれがあるとして、厳しく制限されているからです。

それでも、契約を解除する場合には、正当な理由が必要になります。
経営状況の急激な悪化や工場の閉鎖による派遣業務の消滅など、やむを得ない理由がある場合に限り、契約解除が認められることがあります。
単なる業務量の減少や、派遣社員の能力不足といった理由だけでは、不当な契約解除と判断される可能性が高くなります。

契約を途中解除する際には、原則として30日前までに派遣元企業へ通知すると共に、理由についても丁寧に説明し、承諾を得る必要があります。
派遣元企業は、派遣労働者の雇用主としての責任を負っているため、契約解除によって派遣社員が不利益を被らないよう、再就職先の確保などの措置を講じる必要があります。
派遣先企業はこうした派遣元企業の対応に協力しなければいけませんし、派遣労働者への配慮も必要になります。

また、派遣社員本人にもできるだけ早く通知し、理由を説明して理解を得ることが重要です。
突然の通知は、派遣労働者に大きな不安を与えるため、誠意をもって対応することが求められます。

さらに、労働者派遣法では、派遣元企業が派遣労働者を休業させ、休業手当を支払った場合には、派遣先企業は派遣元に対して、その相当額を支払う義務があると定められています。
また、派遣契約の解除により派遣労働者が損害を受けた場合、派遣先企業が損害賠償責任を負う可能性もあります。
不当な契約解除と判断された場合には、その責任はより重大となるため、法的観点からも慎重な判断が必要です。

派遣契約の解除は、派遣労働者のキャリアや派遣元企業の経営、そして派遣先企業の今後の人材戦略に大きな影響を及ぼします。
三者間で適切なコミュニケーションを図り、常に丁寧かつ誠意ある対応を行うことが、円満な契約終了のためのポイントとなります。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。