上場企業と取引する際に注意したい『インサイダー取引』の適用条件

25.04.29
ビジネス【企業法務】
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「インサイダー取引」とは、上場企業の内部情報にアクセスできる者が、その情報が公表される前に株式などの有価証券を売買する行為のことです。
この行為は、金融市場や投資家間の公正性を損なうため、金融商品取引法によって厳しく規制されています。
インサイダー取引は上場企業だけに限らず、中小企業であっても、上場企業との取引の規模や内容によっては、インサイダー取引規制の対象となる可能性があります。
上場企業との取引においてインサイダー取引規制に抵触しないために、規制の中身をしっかりと把握しておきましょう。

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インサイダー取引に該当する行為

インサイダー取引が禁止されている理由は、金融市場と投資家間の公正性を確保するためです。
株式市場は多くの投資家が参加することで成り立っています。
もし、一部の投資家が重要な内部情報を独占し、それに基づいて有利な取引を行うことが認められてしまえば、ほかの投資家は不利益を被り、市場の信頼は失われてしまいます。
つまり、インサイダー取引は、金融市場における『ルール違反』であり、市場に参加する者の信頼を裏切る行為といえます。

では、具体的に、どのような行為がインサイダー取引に該当するのでしょうか。
たとえば、上場企業の開発部門の担当者が高評価を得ると確信した新商品の情報が公表される前に自社株を購入した場合や、上場企業の経理担当者が業績の悪化によって株価が暴落する可能性が高いことを知り保有する自社株をすべて売却した場合などがあげられます。
これらの事例は、いずれも内部情報を利用して情報が公表される前に有価証券の売買を行う行為であり、インサイダー取引に該当します。

インサイダー取引規制の対象となるのは、上場企業の役員や従業員、取引先など、内部情報にアクセスできる立場にある者です。
この対象者が、新製品の開発や業績予想の修正、合併・買収など、投資家の投資判断に影響を与える可能性のある情報を公表される前に知り、公表までの間に当該企業の有価証券を売買した場合、罪に問われます。
この有価証券は株式だけではなく、企業が発行する社債や新株予約権証券なども含まれます。
逆に、これらの要件に一つでも該当しない場合は、インサイダー取引規制の対象とはなりません。

中小企業は上場企業と取引する際に注意

インサイダー取引は中小企業であっても、規制の対象になるケースがあります。
それは、上場企業と取引をすることになった場合です。

上場企業との取引において、重要な契約交渉やM&Aに関する情報、上場企業の業績に関する情報を決算発表前に知った場合などは、インサイダー取引規制の対象となる可能性があります。
たとえば、取引のなかで上場企業の会社関係者からその会社が新株を発行するなどの「重要事実」を伝えられた中小企業の担当者が、当該上場企業の株式を売買するケースなどは、典型的なインサイダー取引です。
また、上場企業に対して公開買付けを行うことを決めた中小企業の役員が当該上場企業の株式を売買する場合についても、同様にインサイダー取引となります。
つまり、中小企業であっても上場企業との取引を通じて、重要事実に接する機会があれば、インサイダー取引に注意しなければいけません。

もし、インサイダー取引規制に違反した場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
法人の場合はさらに罪が重くなり、5億円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、違反行為によって得た利益相当額の課徴金が科されることもありますし、これらの罰則に加えて、社会的信用が失墜し、企業イメージが大きく損なわれることもあります。

インサイダー取引規制に抵触しないためには、上場企業から得た情報は社内で厳重に管理し、外部への漏洩を防ぐことが大切です。
重要事実にアクセスできる者を限定し、必要最小限の範囲で情報共有を行いましょう。
また、取引先企業の株式の売買に関するルールを明確化して周知することや、インサイダー取引規制に関する研修を実施することも効果的です。

中小企業のインサイダー取引規制違反は、役員や従業員の知識不足と意識の低下によって起きるといわれています。
インサイダー取引は金融商品取引法によって厳しく規制されており、違反すると大きなペナルティを受けることになります。
上場企業との取引に際して、少しでも不安や懸念があれば、弁護士などの専門家に相談して、アドバイスを受けることをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年4月現在の法令・情報等に基づいています。