『自爆営業』はパワハラ! 自社商品の購入強要に要注意

25.04.08
ビジネス【労働法】
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従業員が販売目標達成のために、自社の製品やサービスを自腹で購入することを「自爆営業」といいます。
自爆営業が行われる背景には、厳しいノルマが課され、その達成のために自腹で商品を購入せざるを得ない状況があるといわれています。
自爆営業の要因となる過大なノルマや上司からの叱責などによって、自死する人も出ていることから、厚生労働省は2024年11月に自爆営業をパワーハラスメントの一つであるとしました。
自爆営業に該当する事例や、自爆営業を続ける会社側のリスクなどについて解説します。

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パワハラ防止法指針に自爆営業を明記する方針

利益を上げるために、一定のノルマを設定している企業は少なくありませんが、ノルマを達成できなかった際に、従業員が自腹で商品などを購入しなければならない状況に陥ることがあります。
ノルマ達成のために従業員が自腹で不要な商品を購入したり、不必要な契約を結んだりすることを「自爆営業」と呼びます。


内閣府が公開している資料では、保険契約数のノルマを達成するために、自腹で自動車保険に加入した中古車販売会社の社員の話や、自社の共済事業のノルマの達成のために不必要な共済を契約した農協職員の話など、自爆営業の事例が紹介されています。


特に高額な商品や季節食品などを扱っている会社では、自爆営業が深刻化する傾向にあるといわれています。
過去には、中古車販売会社の新入社員が半ば強制的に自社で販売している車を購入させられたケースや、セレクトショップの販売員が制服として売り場の商品を購入することになったケース、コンビニで働く外国人労働者が恵方巻きやクリスマスケーキを購入させられたケースなどがありました。


親を保険に加入させたり、親族名義でマンションを購入したりといった、従業員本人だけではなく、その家族にも影響が及ぶこともあり、自爆営業は労働者の大きな負担となっています。


これまでは実態が把握されておらず、違法性の判断基準も明確ではなかったことから、個別に自爆営業がパワハラだと認められるケースはあったものの、実質的には放置されてきました。
そのため、古くからの慣習として、自爆営業が黙認されていた業界や企業も少なくありません。


しかし、自爆営業は従業員に経済的な負担を強いるだけでなく、精神的な苦痛を与える可能性もあり、近年は自死する人も出ていることから、厚生労働省が自爆営業の防止に乗り出しました。
2024年には、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」に基づくパワハラ防止法指針に、自爆営業がパワハラに該当する場合があると明記する方針が示されました。

自爆営業がパワハラになる3つの要素

では、どのような自爆営業がパワハラに該当するのでしょうか。
たとえば、ノルマや販売目標などが設定されていない会社で、従業員がみずからの意思で自社商品を購入する場合は、パワハラには当たりません。
パワハラになるのは、以下の3つの要素をすべて満たす場合とされています。


(1)優越的な関係を背景としている
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えている
(3)労働者の就業環境が害される


上司や会社が立場の弱い従業員に「ノルマ達成のために自分で商品を買うように」と、暗に強制するのは(1)に該当しますし、従業員がみずからの給与で自社の商品を買うのは(2)に該当します。
本来、販売ノルマの達成は企業の責任であり、従業員個人に負担させるのは合理的な業務範囲を超えているといえます。
従業員がみずからの給与で自社の商品を買う義務は一切ありません。
また、自爆営業によって従業員の経済的・精神的な負担が生じている場合は、(3)が当てはまります。
精神的なストレスが増して、仕事のモチベーションが低下する人や、追い込まれてうつ症状が出てしまう人もいるでしょう。


多くの自爆営業はこの3つの要素をすべて満たしており、パワハラに該当する可能性が高いといえます。
自爆営業がパワハラに認定される可能性が高まったことにより、企業はこれまで以上に自爆営業をさせないように気を配らなければいけません。
ノルマの設定が高すぎると、自爆営業が起きやすくなるため、まずは適切なノルマに設定し直す必要があります。
また、従業員に過度なプレッシャーをかける販売方法も見直し、チームで目標達成を目指すなど、協力体制を築いていくことも大切です。
さらに、管理職を対象に、研修などで自爆営業がパワハラに該当する可能性があることを認識してもらいましょう。


自爆営業は、優越的な関係を背景とした強制的な負担の押しつけであり、業務上の合理性を欠き、従業員の環境を著しく悪化させるパワハラの一種です。
従業員の信頼も失いますし、モチベーションの低下や離職につながる可能性もあります。
従業員に自爆営業をさせないことが、企業としての責務でもあります。
まずは、自社で自爆営業が起きていないか、社内調査などによって実情を確認しておきましょう。



※本記事の記載内容は、2025年4月現在の法令・情報等に基づいています。