無断撮影・録音のリスクとは? プライバシー侵害の境界線と法的責任
スマートフォンや小型カメラなどの普及により、これまで以上に無断で撮影・録音されるリスクが増加しています。
特に、企業や個人のプライバシーが侵害される事例が多発し、法的な規制や対策が求められています。
今回は、無断撮影や録音がプライバシー侵害と判断される基準、関連する法律、そして企業が取るべき対策について解説します。
無断撮影・録音はどこまで許されるのか?
プライバシー権とは、個人の私生活上の情報をみだりに公開されない権利です。
日本の法律では明文の規定はありませんが、判例上、憲法13条の幸福追求権に基づき、プライバシー権が認められています。
具体的には、個人の容姿、言動、私生活上の事実、個人情報などが保護の対象となります。
たとえば、自宅での様子、個人的な会話の内容、医療情報などが含まれます。
近年では、企業の秘密会議や内部情報も不正競争防止法などにより保護されることがあります。
プライバシー侵害に該当するかどうかは、以下の複数の要素を総合的に考慮して判断することが可能です。
(1)撮影・録音の場所
公園や街頭などの公共の場所での撮影は比較的許容される傾向にありますが、自宅や会社の会議室などの私的空間での無断撮影・録音はプライバシー侵害となりやすいです。
(2)撮影・録音の目的
報道、記録、証拠保全、単なる娯楽など、その目的が公共の利益に資するものであれば、一定程度許容される場合があります。
(3)撮影・録音された内容
個人の特定につながる情報か、秘匿性の高い情報か、という点が考慮されます。
顔がはっきり映っている、名前が特定できる会話が録音されているなど、個人の特定につながる内容はプライバシー侵害のリスクが高まります。
(4)撮影・録音の態様や公表の範囲
隠し撮りや盗撮などは違法性が高く、公開される範囲が広範囲にわたれば侵害の度合いが大きくなります。
(5)被撮影・録音者の不快感
一般人の感受性を基準として、不快に感じる可能性があるかどうかが判断されます。
一般的な感覚で「撮られたくない」「録音されたくない」と思われる状況での撮影・録音は、プライバシー侵害と判断される可能性が高いでしょう。
上記の基準に照らし合わすと、無断撮影・録音が必ずしも違法になるとは限りません。
たとえば、職場でハラスメントを受けたと主張する従業員が、上司との会話を無断で録音し、それを裁判の証拠として提出したケースでは、証拠保全という正当な目的があったことから、裁判所はこれを証拠として採用しました。
その一方で、報道機関による隠し撮り取材が名誉毀損と判断された事例もあります。
公共の利益のための報道であっても、手法が相手のプライバシーを著しく侵害する場合には、損害賠償責任を負うことがあります。
一般的には、公共の場での撮影や、報道目的での録音・撮影などでは違法とならないケースが多く、(1)私的空間での撮影・録音(例:自宅、個室、会議など)、(2)撮影・録音が本人の社会的評価を著しく下げる場合、(3)盗撮や隠し撮りなど明らかに悪意がある場合であれば、プライバシー侵害や名誉毀損に該当する可能性が高いと考えられています。
しかし、状況次第の要素は大きいため、上記に該当しなければ絶対に安心というわけではないことを理解しておきましょう。
無断撮影・録音のリスクを管理するには
無断撮影や録音には、複数の法律が関わってきます。
たとえば、プライバシー権と肖像権を侵害された場合については、民法709条に基づく不法行為として扱われ、損害賠償を請求できる可能性があります。
特に相手の社会的評価を低下させる内容は名誉毀損となるケースもあります。
企業活動では、不正競争防止法も関連します。
会議や内部資料の無断録音・撮影は、営業秘密の漏洩に該当する可能性があり、刑事罰の対象になることもあります。
また、各都道府県の迷惑防止条例もこれに該当します。
特に盗撮や悪質な録音行為については、これらの条例に基づいて刑事罰が適用される場合があります。
一例として、東京都迷惑防止条例では、公衆浴場やトイレなどでの盗撮行為は、1年以下の懲役または罰金に処するとされています。
企業が無断撮影・録音のリスクを管理するには、まず社内規定の整備が重要です。
業務中の録音・撮影に関する明確なガイドラインを策定し、許可される場合と禁止される場合を明文化しておくことでトラブルを防げます。
あわせて、従業員教育の強化も必要です。
個人情報の取り扱いやプライバシー侵害リスクについて研修を実施し、特にSNSでの情報発信リスクについての教育を徹底しましょう。
さらに、「機密情報を扱うエリアではスマートフォンの持ち込みを制限する」「重要な会議室には録音防止装置を設置する」「情報漏洩リスクの高いエリアに監視カメラを設置する」といった物理的な対策も有効でしょう。
無断撮影・録音は、正当な目的で行われることもありますが、プライバシー侵害や企業秘密の漏洩といったリスクを伴います。
企業は、適切なルールを整備し、従業員への教育を徹底することで、法的リスクを最小限に抑えることが求められます。
デジタル技術の発展により、撮影・録音が容易になった現代社会では、法律だけでなく、倫理観やマナーも重要な判断基準となります。
※本記事の記載内容は、2025年4月現在の法令・情報等に基づいています。