『中小企業防災・減災投資促進税制』で災害に備える
近年、日本各地で自然災害が頻発し、その規模も拡大しています。
「企業防災」の意識が高まるなかで、2025年度の税制改正では「中小企業防災・減災投資促進税制」の適用期間が2年間延長されました。
この税制は、災害対策のための設備投資を行なった中小企業に対して、税制上の優遇措置を与えるというものです。
中小企業への支援策の一つでもある中小企業防災・減災投資促進税制の適用要件や対象となる設備などを説明します。
中小企業の防災・減災能力を強化する税制
日本は諸外国に比べて自然災害が多く、特に地震に関してはマグニチュード6以上の地震の2割近くが日本で発生しているというデータもあるほど多発しています。
大地震のリスクは年々高まっており、甚大な被害が予想されているマグニチュード8から9クラスの南海トラフ地震については、今後30年以内に発生する確率が80%程度に引き上げられました。
こうした災害の発生は市民生活に大きなダメージを与えることはもちろん、企業の事業活動の停滞を招くことにもなります。
そこで、2019年7月19日には、中小企業における防災・減災能力の強化を目的とした「中小企業防災・減災投資促進税制」が新設されました。
この税制は、「事業継続力強化計画」および「連携事業継続力強化計画」を策定し、経済産業大臣から認定を受けた中小企業が、対象の設備を取得した場合に「特別償却」という優遇措置を受けられるというものです。
制度の対象となる中小企業は、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、もしくは資本金または出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人(大規模法人から出資を受ける法人など一定の法人を除く)です。
また、事業継続力強化計画とは、企業による事業継続に向けた防災・減災のための計画のことで、連携事業継続力強化計画とは、複数の企業が連携して策定する事業継続力強化計画を指します。
中小企業防災・減災投資促進税制を利用するには、まず定められた適用期間のうちに、事業継続力強化計画の認定を受ける必要があります。
2025年度の税制改正では、能登半島地震をはじめとした大規模な災害の発生状況を踏まえ、中小企業における防災・減災能力のさらなる強化のため、適用期間が2年間延長され、2027年3月31日までとなりました。
制度を利用するのであれば、2027年3月31日の適用期限までに、事業継続力強化計画の認定を受けておきましょう。
事業継続力強化計画を策定し、事業所の所在地を管轄する経済産業局に申請することで、認定を受けることが可能です。
申請は書類による申請のほか、電子申請システムが利用できます。
対象になるのは災害の影響を軽減できる設備
認定を受けた中小企業は、事業継続力強化計画に記載されている設備を認定日から1年以内に取得し、事業の用に供した場合に適用されます。
対象となるのは、被災した際に事業継続への影響を軽減する設備です。
たとえば、オフィスビルの被害を最小限に抑えて生産や業務の早期再開を可能にする耐震・制震・免震装置を筆頭に、停電時に冷凍倉庫への電力供給を維持する自家発電設備や、生産設備の浸水被害を防ぐ排水ポンプなども対象となります。
ただし、以下の通り、各設備(減価償却資産)には取得価額の要件が設定されているので、導入の際には取得価額を確認しておきましょう。
・機械および装置(100万円以上)
自家発電設備、浄水装置、揚水ポンプ、排水ポンプ、耐震・制震・免震装置など
・器具および備品(30万円以上)
被災した際に事業への影響を軽減するすべての器具および備品
・建物附属設備(60万円以上)
自家発電設備、キュービクル式高圧受電設備、変圧器、配電設備、電力供給自動制御システム、照明設備、無停電電源装置、貯水タンク、浄水装置、排水ポンプ、揚水ポンプ、格納式避難設備、止水板、耐震・制震・免震装置、架台(対象設備をかさ上げするために取得等するものに限る)、防水シャッターなど
対象の設備を取得し、税務申告の際に申告することで、特別償却が適用されます。
特別償却とは、設備取得の初年度に、通常の減価償却に加え、特別に一定割合を償却できるというもので、中小企業防災・減災投資促進税制における特別償却の償却率は18%(2025年4月1日以降に取得などした場合は16%)です。
中小企業は大企業と比べて資金力が乏しいため、適切な防災対策を講じることがむずかしいケースもあります。
中小企業防災・減災投資促進税制は、そのような中小企業が災害に備えるための支援策の一つです。
設備投資にかかる費用の一部について特別償却が認められるため、初期投資の負担を軽減することが可能ですし、被災した場合には被害を最小限に抑え、事業の早期復旧も可能にします。
なにより、制度の活用は、従業員の安全を確保することにもつながります。
制度の利用を考えているのであれば、まずは各地の経済産業局の担当課に相談することをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2025年4月現在の法令・情報等に基づいています。