「通勤問題」を解消するための企業側の取り組みとは
日本においては労働者の長時間通勤や満員電車による通勤が常態化しています。
東京をはじめとした大都市圏では、満員電車に揺られながら片道1時間以上かけて通勤する人も珍しくありません。
長時間通勤やラッシュ時の通勤は、従業員のストレスや疲労の原因となるばかりか、企業全体の生産性の低下にもつながります。
こうした通勤時の問題を解消するために、企業側は何をすればよいのでしょうか。
コロナ禍を経た今だからこそ、通勤時間を短縮するための取り組みについて解説します。
コロナ前に戻りつつある大都市圏の通勤状況
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、多くの企業がテレワークや時差通勤を導入しました。
これにより、通勤電車の混雑は一時的に緩和されましたが、近年は全体の出社率も増加し、再び通勤時の混雑が戻りつつあります。
コロナ前に戻ったかのような「出社回帰」は世界的な動きでもあり、2024年9月にはアメリカのIT大手の「Amazon」がリモートワーク廃止を発表したことも大きな話題になりました。
また、日本においては、大都市圏の通勤ラッシュ時における混雑率も、コロナ前に近い状態に戻りつつあります。
国土交通省の「都市鉄道の混雑率調査」によれば、東京圏(31区間)において2019年度は163%だったピーク時の混雑率が、コロナ禍の2020年度には107%にまで落ち込んだものの、コロナが5類に移行した2023年度には136%にまで戻っています。
ちなみに、混雑率は150%が「肩が触れ合わない程度。ドア付近の人が多くなる」と定義されており、東京でも路線によってはラッシュ時に150%を超える区間がいくつかあります。
長時間通勤やラッシュ時の通勤は、従業員の生活の質に深刻な影響を与える可能性があります。
通勤時間が長いほど家族との時間が減り、家庭生活に影響を及ぼしかねません。
コロナ前の調査ではありますが、総務省の調査によれば、東京都では全国に比べ通勤にかかる時間が長くなっており、男性の帰宅時間は全国で8番目に遅く、女性は全国で最も遅くなっているというデータもあります。
また、長時間通勤やラッシュ時の通勤によって、従業員の心身の疲労も蓄積します。
長時間通勤やラッシュ時の通勤がストレスの原因となり、うつ病や心身症のリスクを高める可能性がありますし、混雑した電車に長時間乗ることで、インフルエンザやコロナなどへの感染リスクも高まります。
時差通勤や働き方の制度化などで問題を解決
通勤にまつわる諸問題は、企業にとってもリスクでしかありません。
対策を講じないままだと、従業員のモチベーションや生産性の低下を招き、さらには健康問題による休職や離職リスクの増加などを引き起こすおそれがあります。
従業員の生活の質や健康を守るために、企業は従業員に負荷のかからない働き方を模索していかなければいけません。
その方法の一つとしては、時差通勤の導入が考えられます。
出勤時間を分散させることで通勤ラッシュを避けられ、従業員のストレスを大幅に軽減することが可能です。
また、フレックスタイム制や短時間勤務制度の導入も効果的です。
勤務時間を柔軟に設定できるフレックスタイム制を導入することで、従業員が自分のライフスタイルに合わせた働き方を選択できます。
また、子育てや介護などの事情を抱える従業員に対しては、短時間勤務を可能にすることで、ラッシュ時の出社や帰宅を避けられ、通勤の負担を減らすことが可能です。
さらに、コロナ禍では当たり前だったテレワークを引き続き維持することによって、通勤そのものをなくしてしまうのも選択肢の一つです。
近年の出社回帰には、コロナ禍で不足していたコミュニケーションの復活やイノベーションの促進、管理面の効率化などが背景にあります。
もしフルリモートがむずかしければ、週3日の出社に限定するなど、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークを検討してみましょう。
ほかにも、自転車通勤を制度化し、従業員が利用しやすいように駐輪場を整備したり、シャワー室を設置したりするなど、独自の取り組みによって通勤にまつわる問題を解消している企業もあります。
こうした取り組みによって、従業員の健康や仕事への満足度が向上するだけでなく、従業員がより効率的に働けるようになるほか、離職を防ぐことで人材の定着率も高まります。
企業の柔軟な働き方への対応力は、採用市場での競争力を高める要因にもなります。
通勤問題の解消は、企業と従業員の双方にとって大きなメリットのある施策です。
自社の現状を見直し、できることから取り組んでいきましょう。
※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。