急増中の『スキマバイト』を企業が利用する際の注意点
スマートフォンアプリなどを介して、空いた時間に働く「スキマバイト」と呼ばれる働き方が広まっています。
働く側にとっては自分の隙間時間にあわせて働くことができ、事業者にとっては必要なタイミングで必要な数の人材を確保できるというメリットがあります。
人材不足解消の助けになると大きな期待が寄せられているスキマバイトですが、事業者が利用する際には、いくつか注意しなければならないポイントもあります。
また、今や当たり前になったギグワークとは、どのような部分で異なるのでしょうか。
スキマバイトの基礎知識と、企業が利用する際の注意点などを解説します。
スキマバイトのワーカーとは雇用契約を締結
スキマバイトとは、1日や数時間といった短い期間の雇用契約を結んで働くアルバイトのことを指し、2018年にリリースされた「タイミー」をはじめ、「シェアフル」や「ショットワークス」など、スキマバイト専用のアプリの誕生によって爆発的に広まりました。
求人側の事業者は、これらのアプリに人手が必要な日付や時間などの条件を登録して、働き手とマッチングすることで、比較的容易に人材を確保できます。
人材不足に頭を抱えている事業者側にとっては、非常に頼りになるサービスであり、現在タイミーだけでも2023年時点で累計66,000社が利用しているというデータもあります。
スキマバイトとして働く人の数を正確に把握することはむずかしいですが、専用アプリの利用者は約2,200万人といわれています。
その働き方は「スポットワーク」とも呼ばれ、「Uber Eats」などに代表される「ギグワーク」という働き方と共通する部分が少なくありません。
近年、急速に広まったギグワークもスキマバイトも、空き時間に働けるうえに、即日報酬を受け取れるスポットワークの一種ですが、非常によく似た部分がある一方で、大きく異なる部分もあります。
それが契約形態です。
多くのギグワーカーが業務を個人事業主として請け負う「業務委託契約」であるのに対し、スキマバイトのワーカーは通常のパートやアルバイトと同様の「雇用契約」になります。
雇用契約を結ぶということは、1日や数時間の労働であったとしても、スキマバイトには労働基準法が適用され、事業者側は賃金や労働時間などについて、ルールに基づいた対応を行わなければならないということです。
ちなみに、雇用契約は正式な書面を交わさなくても、アプリ上での労働条件の明示および同意で成立します。
労働時間の適正な把握と取り扱いを
事業者がスキマバイトを雇用する際に気をつけたいのが、適正な労働時間の把握です。
スキマバイトへの賃金は原則として1時間単位の時給で計算するため、特に労働時間は正しく把握しておく必要があります。
たとえば、事業場内において作業着や制服などに着替えさせる場合は、着替えの時間も労働時間に含まれます。
過去には「着替えが労働者の任意である場合は、着替え時間は労働時間に含まれない」という判例もありましたが、スキマバイトに対して作業着や制服の着用を義務づけている場合は、労働時間として取り扱う必要があるので注意しましょう。
ほかにも、業務に際して先輩などの作業を見学させる時間や、準備や待機の時間、片付けの時間なども、すべて労働時間に含まれます。
そして、1時間に満たない端数の労働時間の取り扱いにも注意が必要です。
事業場によっては、10分や15分単位で計算し、それ以下の時間を切り捨てているところもありますが、原則として時給は1分単位で計算しなければいけません。
なお、1日単位での端数の切り捨て処理は認められていないため、1分以上の端数を切り捨てる行為は労働法違反となります。
また、スキマバイトは通常のアルバイトと同じなので、社会保険や雇用保険、労災保険の対象となりますが、社会保険も雇用保険も1週間の所定労働時間が20時間以上であることが被保険者となる要件の一つであるため、そもそも1日ごとの契約となるスキマバイトは要件に該当しません。
ただし、労災保険に関しては、スキマバイトでも適用され、もし労災が起きた場合は、労働基準監督署に労災申請を行いましょう。
こうした労災が起きないように、スキマバイトを雇用する際には、労働安全衛生法に基づき、その業務に関する安全または衛生に関する教育を行う必要があります。
ほかにも、スキマバイトに対して、あらかじめ労働条件の明示と就業規則の周知を行うことが事業者に義務づけられています。
労働条件の明示は、就業場所や業務、始業・終業時刻、賃金などの項目を記載した書面を労働者に交付しなければならない労働基準法第15条の「労働条件の明示ルール」に基づくもので、一部のアプリは、この書面を作成して交付できる機能も備えています。
明示した条件と実際の労働が異なる場合は、労働法違反となります。
今後もスキマバイトの市場は拡大していくと見られていますが、「名前ではなくアプリ名で呼ばれる」「契約と異なる業務をさせられた」など、働き手側から問題点を指摘する声もあがっています。
また、アプリのなかには双方を評価する機能が備わっており、報復評価を恐れて正当な評価ができないなどの問題も出てきています。
事業者がトラブルなくスキマバイトを導入するには、専用のマニュアルを作成するなど、適正な受け入れ体制の整備が必要不可欠です。
人手不足で困る事業者にとってスキマバイトは有効な手段となるからこそ、守るべき法律や問題点をしっかりと理解して、活用していきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年12月現在の法令・情報等に基づいています。