M&Aでも使われる『企業価値評価』の種類とは?
M&Aや事業再編などのために、さまざまな情報から企業の価値を算定することを『企業価値評価』といいます。
直近にM&Aや事業再編の予定がなかったとしても、自社の企業価値を把握し、常に高めておくことはとても重要です。
企業価値が高ければ、融資や投資などの際に有利に働きますし、倒産を回避することにもつながります。
企業価値評価は主に財務部門と法務部門の仕事で、算定には専門的な知識を必要とします。
まずは、企業価値評価の概要を理解しておきましょう。
『企業価値評価』で会社の総合価値を算定
事業承継や事業の拡大などを目的とした国内のM&Aの件数が増加しています。
2024年上半期の日本企業が関わるM&Aの件数は、前年同期比の約20%増となる2,321件を記録しました。
M&Aは、売り手側である譲渡企業にとっては、技術や事業を引き継がせることで、従業員の雇用や顧客も守ることができるといったメリットがあります。
一方、買い手側である譲受企業にとっても、事業の多角化や生産力や売上の向上が期待できるといったメリットがあります。
このように双方の企業に利点のあるM&Aですが、合意に至るためには、譲渡価額のすり合わせを行わなければいけません。
譲渡価額とは、企業を売却する際の金額のことで、M&Aの際には双方の企業が出した目安となる譲渡価額をもとに、交渉を重ねていくことになります。
そして、譲渡価額を求めるために必要となるのが『企業価値評価』です。
企業価値とは、その会社の総合的な価値のことで、企業価値評価はその価値を算定するための方法のことを指します。
このように、企業価値評価によって企業価値を求める対象となる会社のことを「評価対象会社」といいます。
企業価値評価によって評価対象会社の正確な企業価値を評価するのは簡単ではありません。
企業価値評価には複数の方法がありますが、どの方法にも長所と短所があり、通常はいくつかの方法を組み合わせて評価を行います。
企業価値を求めるために必要な3つの方法
M&Aや事業再編などの際に使われる企業価値評価は、『コストアプローチ』『マーケットアプローチ』『インカムアプローチ』の3種類です。
この3種類は、より細かく分類されます。
「コストアプローチ」は企業が現在保有している資産をベースに評価対象会社の企業価値を測る方法で、さらに「簿価純資産法」と「時価純資産法」に分かれます。
簿価純資産法とは、評価対象会社の帳簿に計上されている資産から、負債を差し引いて求める方法です。
帳簿上の数字のみで計算できることから、シンプルでわかりやすい方法ともいえますが、市場価値が反映できないため、資産や負債が実際の時価とかけ離れてしまう可能性もあります。
一方、時価純資産法は評価対象会社の資産や負債を時価に修正してから、計算する方法です。
これらの「コストアプローチ」は、現在保有している資産や負債で企業価値を算定するため、その企業のブランド力や将来性などは考慮されないというデメリットがあります。
そこで、算定の際に併用したいのが「マーケットアプローチ」です。
「マーケットアプローチ」とは、株式市場やM&A市場で評価対象会社の類似会社を探し出して、その類似会社の時価総額や取引価額を参考に企業価値を評価する方法です。
「マーケットアプローチ」には上場企業の株価を参考にする「市場株価平均法」と、類似上場企業の株価倍率をもとに算定する「類似会社比較法」、類似会社の公表されている取引価額などを参考にする「類似取引比較法」があります。
ただし、上場企業ではない中小企業の場合、類似会社や類似業種を探し出すのがむずかしいという問題もあります。
その場合は、評価対象会社の将来的なキャッシュフローや収益から企業価値を評価する「インカムアプローチ」を使用します。
「インカムアプローチ」には、将来期待できるキャッシュフローを、将来的リスクを考慮した割引率で割引いて現在価値に置き直すことによって求める「DCF法」と、資本と株式の配当金をベースに算定する「配当還元法」、そして、将来的な収益を現在の価値に換算する「収益還元法」があります。
「インカムアプローチ」のなかではベーシックな「DCF法」がM&Aにおいてはよく使用されています。
通常は、評価対象会社に合わせて、複数の方法を併用しながら企業価値評価を行います。
ある一つの方法で割り出した企業価値をほかの方法で求めた企業価値と比較しながら、その価値の正当性や妥当性を検証していくという作業も必要です。
より正確な企業価値評価が行えるよう、それぞれの方法について、理解を深めておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。