内職を依頼するなら知っておきたい『家内労働法』とは
製造・加工業者や問屋から原材料の提供を受け、自宅で物品の製造や加工などを行う働き方のことを『家内労働』と呼びます。
いわゆる「内職」を行う家内労働者は、製造・加工業者をはじめとした委託者と雇用関係にないため、労働基準法が適用されません。
そのため、家内労働者を保護し労働条件の向上と生活の安定を図るため、1970年に「家内労働法」が施行されました。
家内労働法では、家内労働者に対する工賃の支払いや、安全および衛生の確保などについて定めています。
委託者が遵守しなければならない、家内労働法の規定について解説します。
委託者の義務となる「家内労働手帳」の交付
1973年度には全国に約184万人いた家内労働者も、社会状況の変化などから近年は減少傾向にあり、2023年10月時点で9万4,262人となっています。
家内労働者のうちの9割近くが女性で、業種別では「その他」を除くと、「繊維工業」が2万1,204人と最も多いことがわかっています。
家内労働者はフリーランスやギグワークなどに比べると、総数は少ないものの、製造業を支える大切な役割を担っており、人手不足に悩む委託者にとっても重要な存在です。
新規で家内労働者に作業を委託したい場合は、一般的な求人サイトなどのほか、各自治体の担当課や情報提供窓口を介して、家内労働者を募集することも可能です。
ただし、仕事を委託するのであれば、「家内労働法」について理解を深めておかなければいけません。
家内労働者を保護するために制定された家内労働法は、委託者に対するさまざまな義務を定めています。
その一つが「家内労働手帳」の交付です。
家内労働手帳とは、家内労働者の氏名、委託者の氏名、営業所の名称・所在地、工賃の支払い方法、その他の委託条件などが記載された手帳のことで、委託者は家内労働者にこの手帳を交付する義務があります。
委託者は原材料を家内労働者に受け渡すタイミングで、その都度、委託業務の内容、工賃単価、工賃の支払期日、納品の期日などを手帳に記入し、完成した物品の受け取りや工賃を支払うタイミングで、受領した物品の数量や受領年月日、工賃支払額などを記入します。
こうして家内労働者とのやり取りを記録に残すことで、無用なトラブルを防ぐことが期待できます。
必要な届け出と工賃の支払いについて
家内労働者は委託者から物品の提供を受けて、物品の製造加工などを行うことが前提となるため、たとえば、運送や建築などの仕事を受託している人は家内労働者にはなりません。
委託者についても、運送業者や建築業者などは委託者に該当せず、あくまで物品を提供して、業務の目的となる物品の製造加工を依頼していることが委託者の条件となります。
もし、新たに委託者となった場合は、所在地を管轄する都道府県労働局長に「委託状況届」を提出します。
委託状況届とは、事業の種類、営業所の名称・所在地、委託している業務の内容、家内労働者や補助者の数などを記載したもので、委託者となったときのほかに、毎年4月30日までに4月1日現在の状況について届け出る必要があります。
また、家内労働者または補助者が委託した業務を原因として負傷したり疾病にかかったりして、4日間以上の休業もしくは死亡した場合は「家内労働死傷病届」を提出しなければいけません。
2023年10月時点で、危険有害業務に従事する家内労働者は7,832人で、家内労働者に占める割合は8%となっています。
家内労働法では、仕事による災害を防止するため必要な措置を取ることが義務づけられており、委託者は家内労働者の安全および衛生の確保に務めるようにしましょう。
そして、家内労働法では委託者が家内労働者に支払う工賃についても定めています。
工賃については、特定の物品について一定単位ごとに最低工賃額が定められており、その額を下回る工賃での委託は無効となるので注意してください。
また、工賃は納品から1カ月以内に、原則として全額を現金で支払う必要がありますが、家内労働者の同意があれば、郵便為替の交付や銀行口座などへの振り込みといったかたちで支払うことも可能です。
家内労働者は高い技能を持ち、長年同じ仕事を委託されている人も少なくありません。
やむを得ず委託を打ち切らなければならない際は、家内労働者が別の委託者を探せるように、打ち切りまでに十分な期間を設けるようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。