マーケティングや顧客との関係構築に役立つ『返報性の原理』とは
人から親切にされたり、贈り物をもらったりしたときに、何かお返しをしたくなる心理的な作用のことを『返報性の原理』と呼びます。
この返報性の原理は、顧客との関係構築や交渉、商品の販売促進など、マーケティングにも活用することができます。
ただし、返報性の原理をうまく使ったつもりでも、相手に負担を感じさせてしまったり、むしろ人間関係を悪化させてしまったりするといった失敗例もあります。
マーケティングに活用する際に知っておきたい、返報性の原理の基礎について解説します。
「お返しをしたい」という気持ちを引き出す
スーパーマーケットなどで、販売員がよく試食を行なっているのを見たことがある方は少なからずいらっしゃることでしょう。
これは、商品を購入してもらうためのプロモーションの一つですが、『返報性の原理』を利用したマーケティング手法でもあります。
試食はお客が販売員から手渡された試食品を食べたときに、「食べてしまった手前、商品を購入しなければ」という気持ちにさせることを目的としています。
商品を購入することで、お客は試食品の提供を受けたことへの『お返し』ができるのです。
ほかにも、無料サンプルの配布や初回無料サービスなども返報性の原理を利用しています。
お客にサンプル品やサービスを無料で提供することによって、一種の「貸し」を作り、お客は、そこでの「借り」を返すために商品を購入するというわけです。
何か好意を受けた際に「お返しをしたい」と考えるのは、人の自然な心理的作用です。
1971年に心理学者のデニス・リーガンが自身の論文のなかで、返報性の原理についての実験結果を発表しました。
この実験は、仕掛け人と被験者の2人1組で行われ、仕掛け人がジュースを買いに出かけ、帰ってきた後で福引券の購入を依頼するという内容でした。
このとき、仕掛け人が被験者の分もジュースを買ってきてあげた場合と、仕掛け人の分しか買ってこなかった場合では、福引券の購入率に2倍もの差が出ました。
ジュースを買ってもらった被験者には「買ってもらったので、お返しをしなければ」という心理が働き、福引券の購入に至ったというわけです。
自己開示の返報性と好意の返報性で関係構築
この返報性の原理が作用するシーンは物の購買だけに限りません。
たとえば、顧客から情報を引き出したい場合は、まずこちらから有益な情報を与えることで、相手も同等の有益な情報を提供してくれる可能性が高くなります。
また、取引の席などで顧客と関係を深めたいのであれば、プライベートの話を切り出してみるのも一つの方法です。
家庭や趣味の話など、仕事とは少し離れた話をすることで、相手も自分のプライベートな話をするようになり、より親密な関係を築くことができます。
こうした自分の知っている情報を開示することで、相手も情報を開示するようになる心理的な作用のことを「自己開示の返報性」といいます。
さらに、こちらから好意を示すことで、相手も好意で返してくれる返報性のことを「好意の返報性」といいます。
逆に「敵意の返報性」といって、敵意を向ければ相手は敵意で返してきます。
よいビジネスパートナーになりたければ、相手に好意を示すようにするのが鉄則です。
挨拶をすれば、挨拶が返ってきますし、親切にすれば、親切にしてもらえます。
返報性の原理はビジネスシーンだけではなく、すべての人間関係に通じる心理作用といえるでしょう。
ただし、返報性の原理によって相手に負担をかけてしまわないように注意しましょう。
たとえば、顧客に好意を示すために手土産を持参することもあると思いますが、その手土産があまりに高価なものだと、相手の負担になってしまうばかりか、場合によっては警戒させることにもなりかねません。
最終的には相手との関係性を壊してしまう危険もあります。
また、返報性の原理はあくまで相手側の「お返しをしたい」という親切心を利用した心理的な作用です。
こちらから過大なお返しを求めたり、お返しがなかったからといって敵意を向けたりしてはいけません。
「相手に喜んでもらいたい」という気持ちが根底になければ、返報性の原理は成功しません。
返報性の原理は、相手との適度な距離感とバランスが何よりも大切です。
過剰な贈り物を提供したり、見返りを要求したりせず、相手に自然と「お返しをしたい」と思わせるのが返報性の原理をマーケティングで活用する際のコツです。
※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。