税理士法人エスペランサ

インボイス制度導入後の経理業務の変更点をチェック!

24.01.30
ビジネス【税務・会計】
dummy
2023年10月1日からインボイス制度が始まり、民間調査によると「大変」「少し大変」と回答する事業者が8割以上を占めています。
インボイス制度によって会計処理にまつわるさまざまな実務の変更が生じ、その対応に追われている企業は今も少なくないようです。
さらに、適格請求書(インボイス)を受け取る買手の企業の経理担当は、新しいルールを把握しておかないと、会計上で思わぬミスを招くかもしれません。
すでにインボイス制度は始まりましたが、対応に苦慮している経理担当に向けて、改めてインボイス制度施行後の経理業務の変更点について説明します。
dummy

請求書を区分する必要性と、端数処理の変更

インボイス制度とは正式名称を『適格請求書等保存方式』といい、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式です。
これまで採用されていた『区分記載請求書等保存方式』は、必要事項が記載された請求書や領収書であれば、どの事業者からのものでも消費税の仕入税額控除ができました。
一方、インボイス制度の施行後は、適格請求書発行事業者が発行したインボイスでないと、消費税の仕入税額控除ができなくなりました。

また、インボイス制度によって、インボイスを発行する売手側の事業者(適格請求書発行事業者)はもちろんですが、インボイスを受け取る買手側の事業者も会計処理の実務に変更が生じました。
会計処理はこれまでより複雑になりましたが、変更点を理解しておけば、煩雑な経理業務の対策を講じることが可能です。

まず、実務の変更点では、買手の事業者は売手から受け取った請求書や領収書が、インボイスか否かを判断することが必要になりました。
適格請求書発行事業者ではない免税事業者からの請求書や領収書は、消費税の仕入税額控除ができないためです(ただし、制度開始後の一定期間は、免税事業者からのものであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています)。

インボイスには「登録番号」「適用税率」「税率ごとの消費税額」が記載されているため、請求書がインボイスかそうではないかは判別しやすいです。
そのうえで、取引先が本当に適格請求書発行事業者なのか、『国税庁適格請求書発行事業者公表サイト』で登録番号を検索して、確認しておきましょう。

続いて、インボイスに記載されている消費税額の計算が正しいかをチェックします。
これまでの区分記載請求書等保存方式では、商品ごとに消費税額を計算し、その都度端数の処理を行なっていました。
しかしインボイス制度では、端数の処理がインボイス1枚につき、税率ごとに1回のみと定められています。
つまり、消費税8%と10%の税率ごとに商品の売上金額を合算し、各税率をかけて求めた消費税額の端数処理をそれぞれ行うということです。
ちなみに、端数処理はこれまでと同様、「四捨五入」、「切捨て」、「切上げ」など任意の方法で行います。

端数の処理が変わったことで、消費税額にも変更が生じる可能性があります。
もし、インボイスに記載された税込金額と、計算して求めた税込金額が異なる場合は、取引先にインボイスを修正して再発行してもらうか、もしくは発生した差額を「仮払消費税」などで調整します。

税区分と消費税額の算出パターンが増えた

仕訳も、インボイス制度によって変更が生じました。
これまでの仕入は「課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と「課税仕入10%」という2つの税区分でした。
一方、インボイス制度の施行後は、「仕入税額控除の対象となる課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と「仕入税額控除の対象となる課税仕入10%」に加え、仕入税額控除の対象にはならない「控除対象外の課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と「控除対象外の課税仕入10%」という4つの税区分で仕訳を行うことになります。

さらに、免税事業者からの請求書や領収書であっても、経過措置として、2026年9月までは仕入税額相当の80%、2029年9月までは仕入税額相当の50%が控除できます。
そのため、これらの仕入を仕訳する際には「80%控除対象」「50%控除対象」や「免税事業者からの仕入れ」と記載して、区分することになります。

また、売上と仕入に対する消費税額の計算方式が固定だったものから、税率ごとに区分して集計したものに消費税率を乗じて計算した金額から消費税額を算出する「割戻し計算」と、集計期間において、1仕訳単位で取引金額(税込価額)を消費税額と本体価額(税抜価額)に区分し、その消費税額を積み上げて計算を行う「積上げ計算」のいずれかを選択できるようになりました。
この選択により、売上や仕入に対する消費税額を少なくすることが可能です。
ただ、どちらの方式がその事業者にとって有利になるか判断するのはむずかしい一面もあります。

インボイス制度の導入により事業者にとってメリットとなる部分はありつつも、煩雑な処理が増えている分、ミスが起こりうる可能性もあります。
たとえばインボイス制度に対応した会計システムを利用するなど、どの書類をどのように処理するかの判断は事業者みずから行うことになります。
判断に困った場合は、税に詳しい専門家に相談することをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2024年1月現在の法令・情報等に基づいています。