税理士法人エスペランサ

『身に覚えのない中傷』から会社を守るための口コミ対応講座

21.06.08
ビジネス【企業法務】
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誰もがネットで自由に発言できる時代になりました。
口コミなどを利用して、商品・サービスの販路の拡大に成功する企業も増えています。
しかしその反面、ネットの口コミには、根拠のない批判にさらされたり、そんな事実はないのに「従業員を大切にしないブラック企業だ」などと書き込まれてしまうといったリスクも存在します。
今回は、どのような口コミが違法なのか、また、違法な口コミの削除方法に関する法律の基礎知識について説明します。
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表現の自由と企業利益、どちらをとるか

何者かによって特定の企業に関する悪い口コミを書きこまれた場合、企業は、口コミを削除したり、場合によっては、書き込んだ人を特定して損害賠償を請求したりすることを検討するでしょう。

しかしながら、企業にとって都合の悪い口コミがすべて違法とはいえません。
サービスへの正直な感想がインターネット上で公開されるのは、社会としては望ましいことでもあるのです。
それを前提としたうえで、違法な口コミとして削除請求等が認められるかは、損害の内容によって違ってきます。
つまり、市民が自分の思うように口コミをする権利と、企業が受ける損害の内容を比較したうえで、どちらを優先すべきか判断されるのです。

一般的に、インターネット上の口コミが名誉棄損として違法になる要件は、以下のように考えられています。

(1)当該記載により社会的評価が低下するおそれがあるといえること
(2)違法性阻却事由の不存在(以下のいずれかに該当すること)
 ア.公共の利害に関する事実ではないこと
 イ.公益を図る目的でなされたものではないこと
 ウ.内容が真実ではないこと

たとえば、「A社は残業代を支払っていない」という口コミを書き込まれたケースを想定してみましょう。

残業代を支払わないというのは、当然、A社の社会的評価を低下させる情報です。
この口コミは社会的評価を低下させているといえるでしょう。
一方で、その口コミは、『社会に対して労基法を遵守しない会社の存在を知らせるもの』だともいえます。
そうであれば、内容は公共の利害に関することであり、また、公共目的であることは否定できません。
したがって、当該口コミは、『違法性阻却事由の不存在』の条件に照らしあわせると、その内容が真実でない場合に限り削除等が認められる、といえます。


まずは裁判所外での請求を

違法な口コミがなされた場合、まずは、書き込まれているサイトの管理者に対して以下の2つを求めます。

●任意での削除
●発信者情報の開示

この段階で、口コミを削除してもらうのが最も簡便な方法です(以下、両者を併せて『削除等』とします)。
ほとんどのサイトには連絡用のフォームが用意されていますので、フォームから申請をするようにしましょう。
ただ、任意での削除等に応じるケースは、実はあまり多くありません。

そこで、次の段階として、プロバイダ責任制限法ガイドラインに則って請求するという方法があります。
一般社団法人テレコムサービス協会が、プロバイダ責任制限法の運用に関するガイドラインを制定していますので、ガイドラインの内容をよく理解したうえで、それに則って、削除等の請求をします。
このガイドラインを踏まえた請求の段階で、口コミや投稿の削除ができるケースは多く、削除という目的が速やかに達せられる方法といえます。

この方法でも削除等がされない場合には、裁判所に仮処分という手続を申し立てるのが一般的な対処です。
仮処分は、「一応は違法であるだろう」という心証の下でなされる裁判所の決定であり、通常の訴訟と比して短期間で結論が出ます。
この仮処分は、法律上は、改めて訴訟の場で審理することを予定しているものです。
しかし、プロバイダ側は、仮にでも削除や、発信者情報を開示した場合には、それ以上、訴訟で争うことを希望しません。
インターネット関連紛争においては、仮処分で最終的に決着がつくことも多いといえます。


手間も費用もかかる投稿者の特定

以上のような手順で、口コミを首尾よく削除できたとしても、再度、同じ人物に書き込まれるリスクは排除できません。
むしろ、削除されたことに立腹し、さらに悪質な口コミをばらまいてしまう危険性もあります。
その場合には、当該口コミの投稿者を特定したうえで、損害賠償請求をしたり、同様の口コミをしないことを約束させることが必要になります。

もし、口コミの発信者を特定する場合、通常の手続きでは、発信者情報開示請求を2回行うことが必要になります。
これは、掲示板等の管理者は投稿者の氏名や住所という情報を有していないからです。

手続きとしては、まず、掲示板等の管理者から、悪質な口コミやレビューを書き込んだ者のIPアドレスおよびタイムスタンプを取得します。
続いて、いわゆるアクセスプロバイダに対して、当該投稿時間に当該IPアドレスを利用していた人物の氏名や住所といった情報の開示を求め、最終的に、どこの誰がその口コミやレビューを書き込んだのかを特定するのです。

現状の話になりますが、発信者情報の開示に対しては、どの事業者も慎重な姿勢で臨んでおり、裁判所の決定がなければ開示しない業者が大半です。
そのため、以上のような仮処分等の手続きを2回行う必要があり、弁護士費用としても、50万円~100万円ほどかかるケースが多くみられます。

このように、法制度の下で口コミを削除するには、ある程度の手間やコストがかかることは覚悟しなければなりません。
『本当に法的な対処が必要なのか』をよく検討し、もし、口コミやレビューが書き込まれたサイトに、企業から直接返信できる機能等があったならば、そこで会社側の考えを表明するなどの、より簡易的な対処を検討することが必要でしょう。


※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。