税理士法人エスペランサ

患者の紹介料を支払うと罰則!? “患者紹介ビジネス”に要注意

19.12.19
業種別【医業】
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2013年、訪問診療を必要とする人が多く入居する施設や住宅の管理者が一部の保険医療機関に患者を紹介し、紹介料を受け取っていた事例が報道されました。
その際、『患者紹介ビジネス』が問題視されたことで、保険医療機関が患者紹介の対価として金品などを提供することは『保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)』で規制されることになりました。
しかし、規則内容が具体的にどのような場合を指すのかは、必ずしも明らかではありません。
そこで今回は、療担規則でポイントとなる『経済上の利益提供の禁止』について説明します。
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紹介料禁止ルールを定めた『療担規則』

健康保険法の委任を受けた療担規則は、患者紹介に対する経済的利益提供を禁止している法令です。
療担規則第2条の4の2第2項は、『保険医療機関は、事業者又はその従業員に対して、患者を紹介する対価として金品を提供することその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない。』と規定し、保険医療機関が、患者紹介の対価として経済上の利益を提供し、患者を誘引することを禁止しています。
当該規定に違反した保険医療機関は、健康保険法違反となり、刑事罰を課されることはないものの、保険医療機関指定取消という罰則を受ける可能性があります。

療担規則第2条の4の2第2項の趣旨は、二つあるとされています。
一つめは、患者が保険医療機関を自由に選択できる環境を確保するというものです。
保険医療機関が患者紹介を受け、紹介料を支払うことは、特定の保険医療機関への患者誘導につながり、患者の自由な選択が害されることになるから、これを防止するということです。
二つめは、健康保険事業の健全な運営の確保です。
患者紹介に対し、保険医療機関が対価を与えることを放任すると、患者を経済上の取引の対象とすることにつながり、保険診療そのものや保険財源の効果的・効率的な活用に対する国民の信頼を損なうから、これを防止するということです。


療担規則が禁止する経済上の利益とは?

療担規則は、保険医療機関が患者紹介の対価として経済上の利益を提供することを禁止しているため、経済上の利益が具体的に何を指すのかを知る必要があります。
そして、療担規則が提供を禁止する経済上の利益とは、行政上、金銭、物品、便益、労務、饗応(きょうおう)などを意味し、商品または労務を通常の価格よりも安く購入できることで得られる利益も含まれるとされています。
そして、経済上の利益の提供を受ける者として行政上想定されているのは、主に、患者紹介を行う仲介業者またはその従業者、患者が入居する集合住宅・施設の事業者またはその従業者等とされています。

また、療担規則は、保険医療機関による患者の誘引を禁止しているため、患者の誘引とは具体的に何を指すのか知る必要があります。
そして、行政は、患者の誘引が行われているか否かについては、保険医療機関が有する診療録に添付された訪問診療の同意書、診療時間(開始時刻および終了時刻)、診療場所または診療人数などを参考として、決めると解しています。


提携医療機関の間での紹介はOK?

保険医療機関の指定を受けているAクリニックが保険医療機関の指定を受けていない(自由診療しか行っていない)Bクリニックと提携し、患者を紹介し合い、紹介料を払い合うことは、療担規則に反するでしょうか?
この場合、AクリニックがBクリニックに患者を紹介し、紹介料を受領することは療担規則第2条の4の2第2項に違反しません。
療担規則第2条の4の2第2項が禁じているのは、あくまで『保険医療機関』による経済的利益の提供と患者の誘引であり、保険医療機関ではないBクリニックが経済上の利益を提供することを禁止していないからです。
逆に、BクリニックがAクリニックに患者を紹介し、Aクリニックが紹介料を提供することは、療担規則に違反することになります。
Aクリニックは保険医療機関だからです。

問題となるのが、AクリニックもBクリニックも保険医療機関の指定を受けていて(その場合でも、Bクリニックが自由診療を行うことは可能です)、BクリニックがAクリニックから自由診療の患者の紹介を受け、紹介料を支払ったような場合です。
このような場合、療担規則に反するか否かについては、明確な見解が行政からも示されておらず、判断は分かれることになります。
療担規則は、あくまで保険診療に関する規則のため、自由診療の場合に適用されないと考えるなら、療担規則に違反しないことになります。
逆に、Bクリニックも保険医療機関であることに変わりはないとして、療担規則を適用されると考えるなら、療担規則に違反することになるでしょう。
このように、医療機関による患者紹介のための対価の支払いが、療担規則に違反するか否かは、必ずしも明らかではない事例が存在することには注意が必要です。

近年、有料制のクリニックの紹介サイト、有料制の患者と医療機関のマッチングサイト、国内コーディネート機関による医療機関と外国人患者の仲介、といった新たなサービスが出てきています。
このようなサービスにおいて、患者を紹介する事業者が何らかの形で医療機関等から対価を受け取った場合、療担規則に違反するのか否かは、必ずしも明らかではありません。
このようなサービスの提供を試みようとしている事業者は、事業内容の適法性について専門家の意見を仰ぎ、慎重に判断することが重要です。


※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。