社員の『ポータブルスキル』を鍛えることで得られる利点
「ポータブルスキル」とは、特定の職種や業界、企業の枠を超えて、どこでも通用する「持ち運び可能な能力」を指します。
終身雇用が当たり前ではなくなり、働き方が多様化する現代において、労働者がこのポータブルスキルを身につけることは、自身のキャリアを守るうえでも重要なポイントになりました。
しかし、労働者だけではなく、企業側にも社員のポータブルスキルの育成に注力する必要があるといわれています。
社員のポータブルスキルが企業にどのような利点をもたらすのか、紐解いていきましょう。
社員のポータブルスキルを『見える化』する
ポータブルスキルは、主に「仕事の進め方に関する能力」と「人との関わり方に関する能力」で構成されています。
「仕事の進め方に関する能力」とは、現状を分析し問題を発見し、それを解決するための計画を立て実行する「対課題」のスキルを指します。
「人との関わり方に関する能力」は、上司や同僚、顧客など、他者の意図を的確に理解し、自分の考えをわかりやすく伝え、協力を仰ぎながら物事を進めていく「対人」のスキルを指します。
こうした能力は、日々の業務を通じて発揮されるものであり、ビジネスパーソンとしての基礎体力を司るものです。
厚生労働省では、社員のポータブルスキルを把握できる「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」を公開しています。
このツールでは、以下の例のように、まず各スキル項目に持ち点を割り振り、「持ち味の測定」を行います。
<例>
・現状の把握:常にアンテナを張って情報を収集し、それを評価・分析している
・計画の立案:最終的なゴールに向けて、効果的なシナリオを描き、具体的な実行計画を立てる
・社内対応:価値観の異なる人々や利害の対立する社内関係者と調整し、合意形成を図る
・上司対応:上司に対して、報告や意見具申を行う
続いて、「到達度の測定」で自身のレベルの到達度を選択することで、入力した数値と近い5つの職務と職位における結果が表示されます。
結果は、「仕事のし方」と「人との関わり方」のそれぞれがグラフで表示され、社員のポータブルスキルの把握に役立ちます。
即戦力になるテクニカルスキルの弱点
ポータブルスキルに対し、プログラミング技術や経理の知識、特定の機械の操作スキルなど、特定の業務を遂行するために必要な専門知識や技術のことを「テクニカルスキル」と呼びます。
テクニカルスキルは即戦力として使えるわかりやすい能力ですが、技術革新や市場の変化によって陳腐化しやすいという弱点もあります。
一方、ポータブルスキルは、業種や職種が変わっても長く使える基本的な能力です。
どれほど優れた専門知識を持っていても、計画性がなければ業務は混乱しますし、周囲と円滑に連携できなければ、その知識は組織の成果に結びつきません。
ポータブルスキルは、テクニカルスキルという道具を使いこなし、成果を出すための土台のようなものといえます。
会社側がポータブルスキルを鍛える理由
会社が社員のポータブルスキルを鍛えることで、まず本人にとって大きなメリットがあります。
自身の市場価値が高まり、仮に会社や部署が変わったとしても、新しい環境で活躍できる可能性が格段に上がるでしょう。
これは変化の多い現代における「キャリアの自律」に直結し、社員自身の安心感や働くモチベーションにもつながります。
一方、会社側のメリットは、組織全体の「対応力」と「生産性」が向上することです。
ポータブルスキルの高い社員は、指示待ちではなく、みずから課題を見つけ、解決策を考え、周囲を巻き込んで行動に移すことができます。
このような社員が増えれば、組織の意思決定スピードは上がり、業務効率も改善されます。
また、対人スキルが向上すれば、部署間の連携がスムーズになり、無駄な摩擦やコミュニケーションコストが削減されます。
ポータブルスキルの向上は、社員の自主的な努力任せにせず、会社が主導して、鍛える仕組みを整えることが重要です。
たとえば、ロジカルシンキングやコミュニケーション、ファシリテーションといったテーマで、体系的な知識をインプットする研修などが効果的です。
並行して、日々の業務を通じた育成にも力を入れていきましょう。
ポータブルスキルは、経験の積み重ねによって初めてスキルとして定着します。
特に有効なのが、意図的に「タフ・アサインメント(挑戦的な仕事)」を任せることです。現在の能力よりも少し難易度の高い業務や、異なる役割を経験させることで、社員はおのずと課題解決力や対人スキルを駆使せざるを得なくなり、結果としてポータブルスキルが磨かれます。
その際には、上司による適切なフィードバックが欠かせません。
「なぜこの仕事がうまくいったのか」「次の課題は何か」を、1on1ミーティングなどの場で具体的に言語化し、内省を促すことが、経験をスキルへと昇華させます。
また、部署横断のプロジェクトチームへの参加を促したり、メンター制度を導入したりすることも、視野を広げて多様な人との関わり方を学ぶよい機会となるでしょう。
社員がどの環境でも活躍できる力を身につけることは、結果として企業の組織力を底上げすることにつながります。
まずは、「ポータブルスキル見える化ツール」で、社員の強みを見える化するところから始めてみてはいかがでしょう。
※本記事の記載内容は、2026年1月現在の法令・情報等に基づいています。