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そのビジネスモデルは大丈夫?『公序良俗』に反するケース

25.07.29
ビジネス【企業法務】
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新たなビジネスモデルを検討する際、その斬新さや収益性に目を奪われがちですが、法的な問題点がないか検証することも非常に重要です。
ビジネスに深く関連する民法には、法律行為の根底にある重要な考え方として「公序良俗」という概念が定められています。
たとえ画期的なビジネスに見えても、その実態が民法に定められた公序良俗に反したものであれば、そのビジネスは成り立たないかもしれません。
こうしたリスクを回避するためにも、公序良俗という概念を正しく理解しておきましょう。

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民法でも定められている公序良俗の考え方

公序良俗とは、「社会の基本的な秩序」と「善良な風俗(一般的な道徳観念)」を合わせた概念です。
そのなかには、日本社会が長い歴史のなかで培ってきた、守るべき規範や道徳的な価値観、人々が安心して暮らすためのルールといったものも含まれます。

そして、この公序良俗は、民法でも明確に定められています。
民法第90条には、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と書かれています。
ここでいう「法律行為」とは、契約を結ぶことや何かを約束することなど、法的な効果を発生させる行為全般を指します。
つまり、どんなに当事者間で合意があっても、それが公序良俗に反するものであれば、法律上はまったく効力を持たず、無効になるということです。

こうした公序良俗の概念は、具体的な法律のように「◯◯をしてはいけない」と明確に定められているわけではありません。
時代や社会の変化によって、その内容は常に変動します。
だからこそ、新しいビジネスを考える際には、常に社会の動向や人々の価値観に目を向け、一般的な感覚から見て「これは問題ないか」と問い続ける姿勢が大切になります。

公序良俗違反の可能性があるビジネスモデル

では、具体的にどのようなビジネスが公序良俗に反するのでしょうか。
たとえば、過去の判例や社会通念から見て、「高利貸し」は典型的な公序良俗に反するビジネスです。
法律で定められた上限金利を大幅に超える金利で貸し付けを行う行為は、経済的に困窮している人を不当に搾取するものであり、社会の公正な取引秩序を乱すとみなされます。

また、ネズミ講(無限連鎖講)も典型的な公序良俗違反のビジネスです。
ネズミ講は、参加者が新たな参加者を勧誘し、その勧誘によって得た金銭の一部が上位の参加者に分配されるという仕組みのビジネスです。
新規参加者の資金がなければ成り立たず、最終的には一部の者だけが利益を得て、その他の大多数の参加者が損失を被る構造は、社会的な公平性を著しく害するため、法律によって禁止されています。

さらに、人の尊厳を著しく傷つける、または人権を侵害するようなビジネスも公序良俗に反します。
例をあげると、売買春を目的とする契約や、奴隷契約のように人の自由を奪うような契約は、たとえ当事者間で合意があったとしても、人間の基本的な権利や尊厳に反するため、公序良俗に違反し、無効となります。
かつては、いわゆる「タコ部屋労働」のように、人身の自由を束縛するような労働契約が問題視されたこともありました。

ほかにも、過度に射幸心を煽るビジネスや、反社会的勢力の活動を助長するビジネスも公序良俗違反と判断される可能性があります。
具体的には、賭博行為そのものを目的としたビジネスや、高額な情報商材を販売して参加者に多額の借金を負わせるようなビジネスも、その実態によっては公序良俗違反とみなされることがあります。

こうした実例からもわかるように、公序良俗違反は単に「悪いこと」という感覚的なものだけでなく、社会全体の健全な発展や公平な取引を阻害する行為に対して適用されることがほとんどです。

新ビジネス開始時に気をつけたいポイント

公序良俗違反は、法律行為が無効にはなるものの、直接的な刑罰が科されることはありません。
しかし、その行為が同時に刑法や特別法に違反する場合は、処罰の対象となります。
たとえば、いわゆる「トイチ(10日で1割)」や「トサン(10日で3割)」といった法外な金利での貸し付けは、公序良俗違反によって契約自体が無効と判断されるだけでなく、貸金業法に違反しており、刑事罰の対象にもなります。

ネズミ講などは、「公序良俗違反」であると同時に、「無限連鎖講の防止に関する法律」で直接的に禁止されており、ネズミ講を開設または運営した人は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

このように、これから取り組むビジネスが法律違反にならないためには、関連する法令を徹底的に調査し、遵守することが重要です。
あわせて、公序良俗に反しないためにも、社会的な倫理観や道徳観念と照らし合わせることが求められます。
自社のビジネスが、社会一般の人々から見て「公正である」「適切である」と感じられるかどうか、常に客観的な視点を持つようにしましょう。

また、新しいビジネスモデルは、これまでの類型に当てはまらない独自性を持つことも少なくありません。
そのため、自社だけで判断するのがむずかしい場合も多々あります。
法律や税務の専門家などに協力してもらうことで、客観的なアドバイスや法的なリスクの指摘を受けることができるでしょう。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。