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政府も後押し!『ジョブ型人事指針』の中身とジョブ型雇用の注意点

25.07.29
ビジネス【人的資源】
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2024年8月28日に、内閣官房は「ジョブ型人事指針」を公表しました。
この指針では、ジョブ型人事制度を導入している先進的な20社の具体的な事例を紹介しており、これから導入を検討する企業にとって、非常に実践的な手引きとなるものです。
指針の公表は、ジョブ型人事制度への関心が高まっているなかで、その流れをさらに加速させるものとみられています。
一方で、ジョブ型人事に抵抗感を持つ企業も少なくありません。
今回は、ジョブ型人事指針が公表された理由や、ジョブ型人事制度のメリットとデメリットなどを解説します。

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「ジョブ型人事指針」が公表された背景

内閣官房が2024年8月28日に公表した「ジョブ型人事指針」は、新しい資本主義実現会議「三位一体労働市場改革分科会」が中心となって策定したものです。
この指針の最大の特徴は、抽象的な概念の説明に留まらず、実際にジョブ型人事制度を導入し、成果を上げている20社の具体的な事例が豊富に盛り込まれている点にあります。
事例は、大企業から中小企業まで、さまざまな業種・規模の企業を網羅しており、各社がどのような課題を抱え、ジョブ型人事制度をどのように設計し、運用しているかが詳細に紹介されています。

具体的には、職務記述書の作成方法、評価制度の見直し、報酬体系の設計、人材育成の考え方など、ジョブ型人事制度を導入するうえで直面するさまざまな課題に対して、具体的な解決策や成功事例が提示されています。
たとえば、ある企業では、各職務に求められるスキルや経験を明確に定義した職務記述書を作成し、それを採用や配置、評価の基準として活用している事例が紹介されています。
また別の企業では、職務等級制度を導入し、職務の難易度や重要度に応じて報酬を決定することで、より公平で透明性の高い評価制度を構築しています。

この指針は、ジョブ型人事制度への移行を考えている企業が、個別の事情に合わせて制度を設計できるよう、多様な選択肢とヒントを提供することを目指しています。
いわば、ジョブ型人事制度を導入するための『羅針盤』のような役割を果たすものといえるでしょう。

では、なぜ政府はこのジョブ型人事指針を公表したのでしょうか。
その背景には、日本企業が抱える構造的な課題があります。
長らく続いてきた年功序列や終身雇用といった制度は、高度経済成長期には安定した雇用を生み出し、企業の成長に貢献してきました。
しかし、グローバル化の進展や国際競争の激化、技術革新などによって環境が大きく変わったことにより、企業はより迅速に市場の変化に対応し、イノベーションを生み出すことが求められるようになりました。

このような状況下で、従来の雇用制度は、従業員の専門性を高めにくい、成果へのインセンティブが働きにくいといった課題を抱えています。
特に、デジタル化の波が押し寄せる現代において、従来のメンバーシップ型では、特定の専門スキルを持った人材を適材適所で配置し、最大限に能力を発揮させるのがむずかしいという実情がありました。
政府は、この指針を通じて、企業が個々の職務に求められる専門性やスキルを明確にし、それに見合った人材を配置・育成するジョブ型人事への移行を促すことで、企業全体の生産性向上と競争力強化を目指しています。

ジョブ型人事のメリットとデメリット

ジョブ型人事制度を導入する際は、メリットとデメリットを把握しておくことが重要です。
メリットとしては、各職務の役割と責任が明確になるため、従業員は自分の職務に集中しやすくなる点です。
これにより、無駄な業務が減り、効率的に仕事を進めることができるため、結果として組織全体の生産性向上につながります。

また、職務内容が明確になることで、企業は必要なスキルや経験を持つ人材をピンポイントで採用し、最適な職務に配置することが可能になります。
従業員自身も専門性を高めるべき方向性が明確になるため、計画的にスキルアップを図り、より高度な専門職として成長していくことができます。

一方、デメリットとしては、ゼネラリストの育成がむずかしくなる可能性があげられます。
職務が明確化されることで、従業員が自身の専門外の業務を経験する機会が減り、幅広い知識や経験を持つゼネラリストが育ちにくくなるかもしれません。
これは、将来の幹部候補の育成において課題となる場合があります。

また、部署間の連携がしづらくなる可能性があります。
職務範囲が明確になることで、自分の担当範囲以外の業務に積極的に関わろうとしなくなり、部署間の情報共有ができない状態である「サイロ化」が生じるリスクがあります。
組織がサイロ化してしまうと部署間の連携が希薄になり、組織全体のパフォーマンスが低下するかもしれません。
ほかにも、制度設計と運用の複雑さや、従業員の意識改革が困難になるなどの課題も考えられます。

このようなメリットとデメリットを十分に理解したうえで、検討することが大切です。
もし、導入する場合は、指針の事例を参考にしながら、自社の状況に合わせた制度の設計を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。