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『熱中症対策』の義務化がスタート! 企業が取るべき対応とは?

25.07.29
ビジネス【労働法】
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近年の夏季は猛暑が続くことが多く、熱中症患者も増加傾向にあり、職場における熱中症対策が大きな課題の一つとなっています。
厚生労働省によって労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日からは、すべての事業者に対して、職場における熱中症対策が罰則つきで義務化されました。
これまでの熱中症対策は、あくまで事業者の努力義務とされていましたが、今回の改正によって、より具体的な対策を講じることが求められます。
従業員の健康と安全を守るためにも、義務となった熱中症対策の内容を把握しておきましょう。

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熱中症のリスクを判断するための「WBGT」とは

猛暑により職場における熱中症発生のリスクが高まるなか、厚生労働省の発表によれば、熱中症による死亡災害が2年連続で30人を超えたことがわかりました。
死亡者の約7割は屋外作業に従事していましたが、熱中症は屋内においても発生する危険性があります。
特に工場や厨房、倉庫など、熱がこもりやすい場所での作業や、空調設備が不十分な環境では、室温や湿度の上昇により、誰もが熱中症になるリスクがあります。
こうした熱中症による死亡災害の多くが、初期症状の放置および対応の遅れが原因でした。

そこで、職場における熱中症の重篤化を防止するために、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日から、すべての事業者に対して、熱中症対策が義務化されました。
対策が必要となるのは、WBGT(湿球黒球温度)28度以上または気温31度以上の作業場で、連続して1時間以上、または1日当たり4時間を超える作業が見込まれる場合です。

WBGTとは、熱中症の危険度を評価するために用いられる国際的な指標で、単に気温だけでなく、湿度、輻射熱(地面や建物からの熱)も含めた3つの要素を取り入れて算出されます。
これによって、より人体が感じる暑さに近い感覚を数値で表すことができます。
たとえば、気温が同じでも湿度が高いと熱中症のリスクは高まりますし、日差しが強い場所では輻射熱の影響も大きくなります。
これら複数の要素を総合的に判断できるWBGTにより、より正確に熱中症の危険レベルを把握することが可能になります。

重篤化を防ぐために義務づけられた措置

労働安全衛生規則の改正により、事業者に義務づけられるのは「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」の3つです。
この3つを軸にしながら、熱中症のおそれがある従業員を早期に見つけ、迅速かつ適切に対処することで、熱中症の重篤化を防ぐことができます。

具体的には、熱中症対策の責任者を明確にし、緊急時の連絡体制や医療機関との連携体制を確立することなどが求められます。
誰が、いつ、どこで、どのような役割を担うのかを明確にすることで、万が一の事態にも迅速かつ的確に対処できるようになります。
熱中症の自覚症状がある作業者や熱中症のおそれがある作業者を見つけた者が、それを報告するための連絡先や担当者を事業場ごとに定めておきましょう。

また、事前に手順を作成しておくことも重要です。
作業からの離脱や身体の冷却、必要に応じた医師の診察または処置、事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先および所在地など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置を事業場ごとにマニュアル化しておくことが、重篤化を防ぐことになります。

さらに、WBGT値に応じた作業の中断基準、休憩の取り方、水分・塩分補給のルール、体調不良者の発見から救急車要請までのフローなどもあらかじめ決めておきましょう。
マニュアルがあれば、誰もが同じ基準で行動でき、対応の遅れや判断ミスを防ぐことができます。

こうした整備された体制や作成された手順を、すべての従業員に徹底して周知します。
全従業員に安全衛生教育の一環として、熱中症に関する知識と対策の重要性を理解してもらうことが、熱中症予防になります。

もし熱中症のおそれのある従業員がいたら

実際に適切な行動が取れるよう、シミュレーションしておくことも大切です。
まず、熱中症のおそれのある従業員を発見したら、直ちに作業を中断させ、涼しい場所へ移動させましょう。
風通しのよい日陰や、エアコンが効いた室内などに移し、衣服を緩め、体を冷やします。
特に首の周り、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている部分を氷や保冷剤などで冷やすとよいでしょう。

次に、意識の有無を確認します。
呼びかけに反応があるか、意識がはっきりしているかを確認し、返事がおかしい、反応が鈍いなど、普段と様子が異なる場合は熱中症のおそれがあるものとして対応し、迅速に119番へ電話し、救急隊を要請します。
意識がはっきりしており、本人が自分で水分を摂取できる場合は、冷たい水やスポーツドリンク、経口補水液などを少量ずつ繰り返し飲ませます。

救急隊が到着するまで、または医療機関へ搬送されるまでの間は、決して一人にせず、継続して体温を下げる努力を続けます。
体調が回復したように見えても、その後に急変するケースがあるため、経過観察は慎重に行う必要があります。
もし、医療機関への搬送に至らない場合でも、回復後の体調急変に備え、事前に定めた連絡体制に基づき、家族などへの連絡や症状が悪化した場合の対応について確認しておきましょう。
判断に迷うような状況では、安易な自己判断を避け、「#7119(救急安心センター事業)」などに連絡して、専門家の指示を仰ぎましょう。

今回の労働安全衛生規則の改正による熱中症対策の義務化は、従業員の健康と安全を守るうえで極めて大きな意味を持ちます。
夏季はもちろん、梅雨の時期や残暑が厳しい時期など、年間を通して継続的に意識し、従業員の体調管理に気を配ることが重要になります。


※本記事の記載内容は、2025年7月現在の法令・情報等に基づいています。