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違法になるケースも?『退職勧奨』を行う際の注意点

25.04.29
ビジネス【労働法】
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「退職勧奨」とは、会社が従業員に対して自主的な退職を促す行為のことを指します。
企業の人員削減や組織再編などに伴い、従業員に対して退職勧奨をしなければならないケースもあります。
しかし、手法を誤ると、従業員との間で深刻な労使トラブルに発展し、企業の信頼を大きく損なう可能性があります。
退職勧奨に関する法的な知識が曖昧なままだと、思わぬ落とし穴にはまるかもしれません。
違法となる退職勧奨のケースや適切な手順について解説します。

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違法になる可能性のある退職勧奨

企業が退職勧奨を行う理由はさまざまですが、近年は経営状況の悪化に伴い、人件費を削減する必要がある場合や組織体制を見直す場合に行われることが増えてきました。
こうした会社側の事情だけではなく、従業員の能力や適性が業務内容と合致しない場合などにも、退職勧奨が行われています。

退職勧奨は会社が従業員に対して退職を促す行為です。
あくまで会社は退職を促すのみにとどまり、退職するかどうかは従業員側の判断になります。
会社が一方的に労働契約を解除する「解雇」と似た部分もありますが、解雇は法的な要件が厳格に定められているのに対し、退職勧奨には法的な規制がありません。

しかし、法的な規制がないからといって、自由に退職勧奨を行なってよいわけではありません。
退職勧奨は従業員の自由な意思決定を尊重し、合意に基づいて進める必要があるため、強引な手法は認められていません。
もし、強引な手法で退職勧奨を進めると、労働基準法などに抵触する可能性があります。

過去の裁判例では、従業員が拒否しているにもかかわらず、長時間にわたって繰り返し退職勧奨を行ったケースや、怒鳴ったり机をたたいたりなどの威迫行為を行い従業員に退職を迫ったケースなどで、違法性が認められました。
また、執拗な退職勧奨や威迫行為だけではなく、脅迫的に退職を迫ったり、実際には拒むことができるのに、誤解させるような虚偽の説明で退職を促したりすることも、違法になることがあります。
さらに、退職に応じないからといって、業務を与えなかったり、嫌がらせをしたりといった不当な扱いをすることも禁じられています。

これらの行為は、従業員の自由な意思決定を妨げ、精神的な苦痛を与える可能性があるので、絶対に行わないようにしましょう。
もし、退職勧奨の違法性が認められると、会社側は従業員に対して損害賠償責任を負うことになりますし、退職自体が取り消されるため、退職してから現時点までの賃金も支払うことになります。
労働基準監督署からの指導・是正勧告を受ける可能性もあるので、注意しましょう。

従業員の合意を得られる退職勧奨の方法

違法な退職勧奨にならないためには、退職勧奨の理由を具体的に説明し、従業員の理解と納得を得ることが大切です。
従業員が退職について納得のいくまで検討できるよう、説明の時間と検討する期間を十分に確保することも必要です。
ただし、面談の時間は長時間にならないようにし、業務時間内に行うようにしましょう。
当然、従業員の意思を尊重し、強引な説得や強要は避けなければいけません。
退職を強制するような発言は避け、あくまで一つの提案として伝えることがポイントです。
もし、従業員が退職を拒否した場合も、執拗な説得は止めましょう。

また、場合によっては、両者合意のうえで面談での会話を録音しておきましょう。
退職勧奨の場では、後になって従業員側から「会社から強制された」「脅迫された」などの主張が出る可能性があります。
録音したデータがあれば、会話の内容を客観的に証明でき、不要なトラブルを防ぐことができるからです。
退職勧奨は本人の自由な意思に基づくことが前提です。
会社が無理に退職を強要したと判断されると、後から不当解雇として争われる可能性があります。

このように適法性を意識することも重要ですが、従業員と合意形成を図ることも大切です。
従業員側に合意を得やすい条件を提示することで、円満に退職してもらうことができます。
たとえば、退職金の増額や特別手当の支給など、金銭的なメリットを提示してみてはいかがでしょうか。
再就職先の紹介やキャリア相談の提供など、転職支援も効果的です。
条件面でも誠意をもって対応することで、合意を得られる可能性が高まります。

退職勧奨は企業にとってむずかしい課題の一つですが、従業員との信頼関係を維持しながら、適切に進めていくことで、双方が納得のいく結果になるはずです。
逆に、違法な退職勧奨は会社の信頼を大きく損なうだけでなく、法的なリスクも伴います。
退職勧奨を行う際は、従業員の立場に配慮した丁寧な対応を心がけるようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年4月現在の法令・情報等に基づいています。