司法書士法人 宮田総合法務事務所

預貯金も遺産分割の対象に!

16.12.21
暮らし・人生にお役に立つ情報
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昨日の日本経済新聞の記事によりますと、遺産相続をめぐり「遺産分割」の対象に預貯金が含まれるかどうかが争われた裁判で、12月19日、最高裁大法廷がこれまでの判例を変更し、「預貯金を遺産分割の対象にする」という新たな基準を示しました。

これにより、我々の生活や相続実務にどのように影響するのでしょうか?

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最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、今月19日、裁判所での審判で相続の取り分を決める遺産分割の対象に「預貯金」は含まないとしてきた判例を変更しました。
過去の判例では、「預貯金」は不動産や株式など他の財産とは関係なく、当然に法定相続の割合に応じて相続人に振り分けるとされてきました。2004年の最高裁判決において「預貯金は法定相続分に応じて当然に分割される」とされていましたが、今回の審判において、裁判官15人の全員一致の決定で、「預貯金は遺産分割の対象に含む」とする初判断が示されました。
 
預金約4,000万円の相続をめぐって遺族2人が争った今回の審判。相続人の一方が被相続人の生前に5,000万円を超える贈与を受けていました。このため、もう一方の相続人の女性が「生前贈与を考慮せず、法定相続分に従って預金を2分の1(約2,000万円)ずつ分けるのは不公平」と主張していました。
今回の事案では、一、二審は過去の判例に沿って女性の主張が退けられていましたが、大法廷は二審の決定を破棄し、預金の分け方などを見直すために、審理を二審・大阪高裁に差し戻す決定をしました。
今回、大法廷は決定理由で「遺産分割は相続人同士の実質的な公平を図るものであり、できる限り幅広い財産を対象とするのが望ましい」と指摘しており、「預貯金は遺産分割の対象とするのが相当だ」と結論づけたようです。

遺産相続をめぐる家庭裁判所の調停では、預貯金を含めた遺産全体を考慮して配分を決めるケースが多いので、法的公平性の観点からも実務上の運用の実態からも、合理的な決定と言えます。
これにより、特定の遺族に多額の生前贈与があった場合の不公平な遺産分割の解消につながるというプラスの面がありますが、反対に次のような金融実務に与えるマイナスの影響があると危惧されます。



例えば、相続発生後に相続人が預貯金を解約払戻しようとしたときに、相続人の一人が関係書類への調印を拒否した場合の運用が従来から変更になる可能性があります。
つまり、相続人全員の合意(各金融機関所定の相続届書への実印押印)がない限り解約払戻し手続きには応じないというのが金融機関の原則的対応であったところ、預貯金の受取を拒否し、解約払戻に非協力的な相続人がいた場合は、多少難航はするものの、最終的に金融機関は、同人の法定相続分を除外した残りの相続分だけを分割債権として払戻に応じてくれる運用を従来はしてくれていました。

しかし、今回の決定を受け、非協力的な相続人以外の相続分を払い戻す法的根拠を失ったことになり、実務上は、反対に預貯金口座全額の凍結リスクが増幅することになると言えます。

相続人の一部が音信不通のケース(生存していることは分かっているが連絡を取ることができない場合)や遺産整理手続きへの協力自体を拒否するケースというのは、弊所で遺産整理業務を多数受任している中では、比較的よくあるお話。今後の新たな法的整備や家裁・金融庁・金融機関の融通の利いた対応が望まれるところです。