司法書士法人 宮田総合法務事務所

拙著『図解 いちばん親切な家族信託の本』の読者からのよくある質問

23.03.27
暮らし・人生にお役に立つ情報
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昨年より、家族信託に関する拙著3冊目の図解 いちばん親切な家族信託の本(ナツメ社)をお読みになった方からのお問合せが非常に多くなっております。
また、ご相談で弊所にお越しになる方やZoom等リモートでのご相談をいただく方の中にも、同書の気になるページを見ながらご質問をいただくケースも少なくありません。
本の重要な記述や疑問が生じた箇所に付箋を付けていらっしゃる方は多いのですが、10カ所以上にたくさんの付箋が貼ってあるのを見かけると、しっかりと読み込んでいただいているのを実感し、とても嬉しくなります。

図解 いちばん親切な家族信託の本』は、一昨年(2021年)の10月の発刊となりますので、発売から既に1年半前後経っておりますが、今でも継続的に全国の書店やAmazon等で売れており(Amazonの「遺言・相続・贈与」ジャンルにおける売れ筋ランキングの上位5位以内に入ることもしばしばです)、これは本当にありがたいことで、感謝の念に堪えません。

今回は、『図解 いちばん親切な家族信託の本』をお読みになった方々から頻繁にご質問いただく内容をご紹介したいと思います。

① 家族信託の検討開始から実行まで2~4ヵ月かかると書いてあるけど、実際どうなの?

親世代・子世代が一堂に会し、親の老後から将来の資産承継まで話し合う場としての「家族会議」を何度も開いていただくので、検討開始から信託契約公正証書の作成(家族信託の実行)まで、一般的には3ヶ月前後を目安としていただくケースが多いです。
その一方で、家族信託の設計がシンプルな場合や緊急性がある場合(老親の判断能力喪失リスクが高まっている場合)は、家族全員の協力のもと効率よく家族会議での検討を行い、最短で1ヶ月ちょっとで信託契約締結まで実行するケースもあります。
信託契約は、「公正証書」で作成いただくのを原則としますので、やはり1ヶ月超は想定いただきたいですが、緊急性の高い場合は、応急措置的に「私文書」で契約を締結いただく対応も可能ですので、そうなると、検討開始から家族信託の実行まで1ヶ月以内に完遂出来たということも実際にはございます。

② 受託者の業務って実際どのくらい大変?

財産管理を担う受託者には、預金凍結対策としての現預金の出納業務に加え、不動産も信託財産に入れる場合は、不動産の管理(家賃の受領など賃貸経営の実質的な引継ぎも含む)や処分(売却や建替えなど)の任務も求められます。
特に、老親の生活資金の管理と給付は重要ですので、受託者が管理する“信託金銭”に使途不明金が生じないようにしっかりとした出入金管理は必要です。
とはいえ、信託用の預金口座(信託口口座又は信託専用口座)を介してお金の入金と出金をしっかりと把握し、支出に対応する請求書や領収書もきちんと保管できていれば、それで十分とも言えます。
「貸借対照表」を作成したり「受託者日報」をつけることができれば、それが100点満点かもしれませんが、自分の親の財産管理に100点満点を目指す必要があるとは限りません(この点において、国の仕組みである「成年後見制度」において求められる財産管理義務とは異なりますし、「商事信託」の受託者である信託銀行等に課せられる義務とも異なります)。
信託財産から収益が上がる場合には、受益者たる老親の確定申告がスムーズにできるように、収入と支出の帳簿管理をしっかりと行い、かつ老親本人も含め家族の皆が安心・納得できる財産管理が遂行できていることが大切です。
家族信託を実行する前から、子が実質的に親のアパートや預金の管理を担っているケースも少なくありません。
その場合は、家族信託を実行した後も、管理のやり方がそれほど大きく変更となる訳ではありません。
家族信託を実行したことにより、家族の負担が大きく増えるという事態は想定する必要はありませんので、安心いただきたいです。

③ 「家族会議」って本当に必須なの?

親の老後を支えるにあたり、複数の子がいながら、財産管理を任せる特定の子(たとえば長男)一人だけに過度な負担を強いるのは好ましいとは言えませんし、親亡き後の遺産(信託の残余財産)も、長男だけに遺すというのを勝手に決めてしまうことも、後で紛争が起こりかねないリスクがあります。
結果として、受託者となる一部の子に負担が多くかかる設計になったとしても、またその結果としてその子が多くの遺産を手にすることになっても、家族信託の設計を検討するプロセスにおいて、家族会議を開いて家族全員(受託者以外の兄弟など)の理解・納得の上で、家族信託の仕組みを実行することができれば、将来の相続発生後における兄弟姉妹間の納得感(争族に発展するかどうか)に大きな差が出ると言えます。
家族会議の開催自体は、必須ではありませんが、親子間・兄弟間の関係性が悪い場合などの特別な事情が無い限り、原則として家族会議の中で検討を重ねる姿勢が、その後の家族関係や遺産相続の場面で大きな意味を持ってくるものと考えます。

④受託者以外の兄弟の同意・承諾は必須なの?

家族会議と同様、必ず受託者以外の兄弟姉妹の同意・承諾が必要となる訳ではありません。
理論上、管理を任せる立場の老親(=委託者)と実際に財産管理を担う子(=受託者)の2者間で信託契約書は締結できます。
とはいえ、長期にわたる老親の財産管理とその先の資産承継に関する重大な仕組み作りになりますので、将来におけるお困りごとやトラブルを避けるために、できる限り受託者以外の兄弟にも理解・納得をいただけるように家族信託の検討段階からお話合いに加わっていただくことが理想です。
設計によっては、他の兄弟も「第二受託者」「第三受託者」といった予備的受託者や「信託監督人」や「受益者代理人」というの立場を担うケースも多いです。

⑤ チェック機能(信託監督人)は置くべき?

受託者の財産管理業務は、信託財産の実質的オーナーたる老親(=受益者)自身がチェックや指導をすることになりますが、加齢に伴い、十分にチェックや指導ができなくなるリスクがあります。
そこで、受益者が元気にチェックできなくなる事態に備え、家族信託の仕組みの中でチェック機能を置くこともできます。
具体的には、「信託監督人」や「受益者代理人」という立場の役職を置くことでチェック機能を持たせることが可能となりますが、必ずしも置かなかければならない訳ではないので、十分な検討が必要です。
たとえば、外部の法律専門職(司法書士や税理士など)にこの立場を担ってもらうとなると毎月の報酬がかかってしまいます。
家族信託の実行後も、定期的な家族会議の開催し、受託者が管理する信託用口座の通帳などを開示して適切に金銭管理が行われていることを家族みんなでチェックするなど、家族信託の仕組みではなく、敢えて家族会議の運用の中で対応することもできるでしょう。

⑥何を信託財産に入れるべき?

どんな財産を信託財産とするかは、最初に下記の観点から考えるとシンプルになるとでしょう。
つまり、親が存命中に動かす(不動産でいうと賃貸、売却、解体、買換え、建設、建替えなどの処分行為をする)可能性のある財産、それは、積極的に処分したい場合だけではなく処分せざるを得ない場合も含めて、そのような財産信託財産として受託者が預かっておくことが良策となります。
たとえば、老親の財産たる築40年を超える古アパートを将来的に解体したり建替えたりしたいケース、老親が高齢者施設に入所したことにより実家が空き家となった場合に、実家を売却して介護費用に充てたいというケースにおいて、不動産を家族信託の信託財産に入れておくことで、実行したいタイミングで実行したいことが確実かつスムーズにできることになり、大きな安心を得ることができるでしょう。
つまり、家族信託は、将来における財産の管理・処分の選択肢を確保するための“保険”としての効果・メリットがあるとも言えます。

⑦預金だけでも家族信託は必要?

老親の財産が現預金だけというケースも少なくありません。
この場合、長期にわたる老親の財産管理について、何をすれば本人及び家族が安心して暮らせるかを考えることが大切です。
最も堅実なレベルの金銭管理が「家族信託」や「成年後見」ということになりますが、それ以外にも預金凍結対策の施策はあります
たとえば、老親のキャッシュカードと暗証番号を家族が掌握しておき、いざという時にATMで親の生活・介護費用を老親に代わって下ろしてあげられるようにしておくことが考えられます。
また、あらかじめ金融機関に「代理人届出」をしておき、本人に代わって家族が窓口での送金や払戻しをできるようにしておくこともあるでしょう。
さらに、インターネットバンキングの仕組みを導入して、老親本人が窓口に行かなくても預金が移動できるようにしておくことや、生前贈与で家族に現預金を敢えて渡しておくことなども選択肢になります。
これらの選択肢を家族とこの分野に精通した法律専門職を交えて検討して、実際の預金凍結対策を実行していただきたいです。

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