相続空き家の譲渡特例が信託の残余財産でも適用できるか
『相続空き家の譲渡所得の特別控除』について、信託契約終了に伴い残余財産の帰属権利者が取得した不動産を譲渡した場合にも適用できるかについて、実務への影響も大きい令和4年12月20日付東京国税局審理課長回答をご紹介します。
【事案の概要】
※ 実際の照会内容よりもシンプルな事例にしております委託者兼受益者となる母親Aと受託者となる長男Bとの間で、母親Aの自宅(居住用家屋及びその敷地。以下「本物件」といいます。)を信託財産とする信託契約を締結。
この信託契約は、受益者たる母親Aの死亡により終了する設計で、母親Aの死亡により当該信託契約は終了し、残余財産となった本物件は、残余財産の帰属権利者として指定された長男Bに帰属。
その後、母親A死亡の翌年に長男Bが本物件を売却したが、それにより発生した譲渡益につき、租税特別措置法第35条第3項《相続空き家の譲渡所得の特別控除》に規定する特例を受けることができるか、というものです。
【東京国税局の回答の要旨】
租税特別措置法第35条第3項に規定する特例は、「相続又は遺贈」による被相続人の自宅の取得をした相続人(包括受遺者を含む)が、一定の譲渡をした場合に、その譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることができる旨規定しています。ところで、信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了し残余財産が権利者に移転した場合などについては、法律上の「贈与」又は「遺贈」には該当しないものの、実質的には贈与又は遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得又は移転などについて贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられています(相続税法第9条の2)。
この点、本件特例は、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していません。
また、本件特例は、相続人が、相続により、その意思の如何にかかわらず、被相続人居住用家屋等の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を「相続人」に限定し、かつ、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした場合に限り適用すると規定したものであると考えられるところ、信託終了による残余財産の取得は法律上の相続又は遺贈には当たらず、受託者は信託行為の当事者であること、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、上記本件特例の趣旨の下では、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられます。
以上のことから、信託契約に基づき、委託者兼受益者の相続開始という信託終了事由の発生により信託が終了したことに伴い、当該信託に係る残余財産を帰属権利者が取得したことは、本件特例に規定する相続人による「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」に該当するとは認められず、また、死因贈与契約に基づき当該残余財産を取得したとする事情も認められませんので、当該残余財産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることはできません。
【まとめ】
昨年末に出されたこの東京国税局審理課長回答は、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人」という租税特別措置法第35条第3項の文言を厳格に解釈したといえます。ただ、放置空き家を抑制するという政策的観点からみれば、『相続空き家の3000万円特別控除』を信託の帰属権利者に適用しても良いのではないかと考えますが、この国税局の回答が実務に与える影響も少なくないです。
つまり、老親が独居で暮らす実家について、老親亡き後に信託の残余財産帰属権利者として実家を承継した相続人が換価処分する場合には、税制優遇措置が受けられない点に注意したいところです。
【参考:国税庁のホームページ】
信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm