宮田総合法務事務所

家族信託の契約書だけでは、預貯金を移せない。必要な手段は?

20.02.26
相続会議(朝日新聞)
家族信託のコンサルタントとして実績がある宮田浩志司法書士が、初めて家族信託を考える読者にも分かりやすく制度について解説します。今回のテーマは、預貯金の信託です。

家族信託の際、契約書の一部をなす信託財産目録に、「○○銀行○○支店 口座番号 ×××の普通預金及び定期預金」や「○○銀行○○支店に対する一切の預金債権」と記載された信託契約書を見かけます。

結論からいうと、このような記載は実務上正しいとは言えません。家族信託の実務・金融実務に精通していない法律専門家が関与して作成した信託契約書には、実務上使えない契約条項が盛り込まれることがあります。

そもそも金融機関に預けているお金は、法律上「現金」ではなく、「預貯金債権」という財産になります。そして、この債権は、各金融機関が定める規定や約款で「譲渡禁止特約」が付いています。金融機関の承諾がなければ、預金名義人以外の財産として取り扱うこと(受託者への信託による譲渡も含め)はできません。

つまり、信託契約書に冒頭のような預金口座・預金債権を信託財産とする旨を記載しても、その契約書を金融機関の窓口に持ち込んで、口座の名義人を受託者に変える名義変更や受託者名義の信託専用口座への送金手続きはできません。