民法(債権法)改正が不動産賃貸業に与える3つのポイント
これにより、従来の不動産賃貸業における賃貸借契約のルールに大きな影響を及ぼすことになります。
何がどう変わるのか、重要な3つのポイントに分けて分かりやすくご説明しますので、賃貸アパート・賃貸マンション経営、不動産賃貸業を営む方は、是非ご確認下さいませ。
債権法の改正が不動産賃貸業に与える影響として、下記の3つが挙げられます。
(1)賃貸借契約の保証人に関するルールの厳格化
(2)原状回復義務と敷金の取扱い明確化
(3)契約期間中の修繕ルールの明確化
以下に、各ポイントに分けて解説致します。
(1)賃貸借契約の保証に関するルールの厳格化(改正民法第465条の2:新設)
従来の不動産賃貸業に最も大きな影響を与えると思われる改正がこの部分です。
従来の一般的な賃貸借契約書には、借主の他に連帯保証人が署名押印していましたが、この連帯保証人は、賃貸借契約に関して発生する債務について上限なく保証することになっていました。
改正民法では、賃貸借契約において、極度額(保証する上限の金額)を定めない保証契約は無効となることが定められました。
そのため、2020年の4月以降に締結する新規又は更新の不動産賃貸借契約において、従来通りの契約書をうっかり使用してしまうと、連帯保証人に関する規定は無効となり、滞納賃料を連帯保証人から回収することは一切できないことになりますのでご注意ください。
従いまして、実務における対応として、新たに締結する賃貸借契約の連帯保証条項には「極度額は本契約締結時点における賃料の●ヵ月分とする」等の上限を定める旨を盛り込むことが必要となります。
なお、民法改正前から継続する不動産賃貸借契約については、いつから改正民法が適用されるかが大きなポイントとなります。
この詳細は、⇒こちらをご覧下さいませ!
【参考条文】
(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
(2)原状回復義務と敷金の取扱い明確化
①原状回復義務(改正民法第621条:改正)
改正前の民法では、原状回復について抽象的な規定しか存在しませんでしたが(民法616条で598条を準用)、改正民法では、借主に原状回復義務があることが明記されるとともに、通常の使用・収益によって生じた賃貸借の目的物(貸室など)の損耗や経年変化については、借主が原状回復義務は負わないことも明記されました。
これは、従来の実務的取扱いを明確にしたもの(法律的には、賃借人の原状回復義務に関する最高裁平成17年12月16日判決を明文化したもの)にすぎないため、実務に与える影響はそれほど大きくはないと思われます。しかし、これを機に、借主が負担すべき具体的な原状回復義務の内容・方法等について一覧表にして、賃貸借契約の締結・更新時に貸主・借主双方できちんと納得して契約することが好ましいといえます。
なお、ハウスクリーニングや畳の張替えなど、通常の損耗に関する原状回復義務を借主に負担させる特約も、貸主と借主との間で納得の上合意されていれば有効となりますが、借主があまりに不当な負担を負わせる内容にならないように注意しましょう。
②敷金(改正民法第622条の2:新設)
改正前の民法には、敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期など敷金に関する規定はありませんでしたが、これまでの判例の考え方が明文化されました。
ただ、これまでの取扱いルールが明記されたに過ぎないので、敷金については、不動産賃貸業の実務において影響はありません。
【参考条文】
(賃借人の原状回復義務)
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
第622条の2 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
(3)契約期間中の修繕ルールの明確化(改正民法第607条の2:新設)
不動産賃貸借契約の貸主は、改正前の民法においても(もちろん民法改正後も)、賃貸物の使用及び収益に修繕が必要になった場合には、修繕する義務を負っています。
例えば、雨漏り、部屋の水道菅の漏水、排水管の詰り、備え付けのエアコン・給湯器・玄関モニターの故障など、借主が普通に使用している中での不具合は、貸主側に連絡をして修繕や機器の修理・交換をしてもらうのが通常の取扱いです。
しかし、借主の要請に対し貸主側が適切な対応をしてくれない場合でも、従来の民法の規定では、借主が勝手に手を加えることはできないとされていました。そのため、借主はそのまま我慢して住み続けなければならなかったり、貸主の承諾の無いまま借主が修繕をしたことにより後でトラブルになるケースがありました。
そこで、改正民法では、下記のいずれかの場合には、後で貸主から責任を問われることなく借主が修繕を行うことができるようになりました(改正民法607条の2)。
- 借主から貸主に対して通知をしても貸主が修繕をしない場合
- 急迫の事情がある場合
なお、改正民法には、「修繕が必要な場合」「急迫な事情がある場合」の具体的な基準までは規定されておりませんので、個々の賃貸借契約書の中で、どのようなケースで借主が修繕しても良いか、その修繕の範囲・修繕の方法・費用負担などを具体的に明記しておくと良いでしょう。
また、借主に修繕の権限が認められるとしても、原則として貸主に対し修繕の前に通知・連絡をすべき旨を明記しておくことも重要でしょう。
【参考条文】
(賃貸人による修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
(賃借人による修繕)
第607条の2 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。