司法書士法人 宮田総合法務事務所

「生産緑地の2022年問題」は本当に問題か?

19.05.09
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不動産業界を中心に叫ばれて久しいのが「生産緑地の2022年問題」

2022年を機に、日本の大都市圏の農地が戸建てやマンションの住宅用地として大量の供給されることで、不動産の地価が大暴落するとともに賃貸物件の空室率が激増するという仮説である。

「生産緑地の2022年問題」が本当に“問題”なのか、を今一度検証したい。

東京ドーム二千数百個分を超える膨大な都市部の農地が、2022年以降一斉に不動産市場に供給され、大都市部の不動産価格が値崩れを起こす、空き家や空室が埋まらないアパートが増加するとささやかれている。

   「生産緑地」「市街化区域」についての詳細な解説はこちら!


1992年に生産緑地法の改正が行われ、都市圏の市街化区域内の農地のうち、特定の条件を満たし、自治体による「生産緑地の指定」を受けた場合は、固定資産税が一般農地並みの課税になったり、終身営農することを条件に相続税の納税猶予が受けられたりする税制優遇措置が取られた。
また、税制優遇と引き換えに、農業以外の用途に土地を使えない、建築物を建てられないなどの行為が制限され、農地としての管理が求められた。

つまり、「生産緑地の指定を受けて今後30年間営農を続けるなら、引き続き農地課税でいいよ」というのが生産緑地制度という仕組みであり、その指定から「30年」が経過し、その優遇と制約の期限が切れる(生産緑地の指定が解除される)のが2022年なのだ。

言い換えれば、理論上2022年以降は、税制優遇を受けられない代わりに営農義務が無くなり自由に農地を宅地に転用することが可能になるという理屈だ。

三大都市圏特定市(東京23区、首都圏・関西圏・中部圏の政令指定都市)の市街化区域には、「生産緑地」に指定されている農地が1万ヘクタール以上もあり、このうちの約8割が2022年が期限となるとみられる。

この30年という期限を迎えたとき、農地所有者が病気・高齢などを理由に農業に従事できなくなった、又は死亡などの場合に、所有者は市区町村の農業委員会に土地の買い取り申し出を行える。

この買取り申し出に対し自治体は、特別の事情がないかぎり時価で買い取るものとされているが、市区町村が買い取らなかったり、生産緑地として他に買う者がいない場合には、この生産緑地指定が解除される。
ただ実際のところは、自治体による買い取りの実績はほとんどみられないのが実情。

生産緑地の指定が解除され固定資産税が従来の100倍以上になると、その税負担に耐え切れず、農地所有者は土地を売却することを検討せざるを得なくなり、そこにハウスメーカーやマンションデベロッパーなどが買主として登場することは容易に想像できる。
その結果、大量の戸建て用地・アパート用地・マンション用地が市場に出回り、不動産市況に悪影響を及ぼすという推測が冒頭の「生産緑地の2022年問題」だ。

★生産緑地の2022年問題に対する政府の対策は?

政府は、この「生産緑地の2022年問題」に対して、実は法改正よりその対策を実行している。
その1つは、2017年の生産緑地法の改正だ。
生産緑地法の改正により「特定生産緑地指定制度」を創設し、従来の税制優遇措置を10年間延長した。
生産緑地に指定されている農地が新たに「特定生産緑地」に指定されると、固定資産税は引き続き農地としての評価が継続され、また相続税納税猶予制度の適用も継続される(その分、宅地に転用できない行為制限も10年間延長される)。
また、10年経過後に再度指定を受ければ、さらに10年間優遇措置が延長される。
この法改正による特定生産緑地の指定制度により、2022年問題が現実化すること(生産緑地が住宅用地としてへ大量供給されることで不動産市況が混乱すること)は、避けることができると見込まれる。
ちなみに、生産緑地を特定生産緑地に指定しなければ、生産緑地としての指定はそのままだが、固定資産税の課税は宅地並みに引き上げられる(急激な課税増額への緩和措置として、5年かけて20%ずつ段階的に引き上げられる)ことに加え、2022年以降に農地所有者に相続が発生しても、相続税の納税は猶予されないことになる。

    生産緑地法改正のポイントはこちら!

また、政府によるもう一つの対策として、2018年には「都市農地貸借法」が成立。
農地を他の農家に貸し付けたり、市民農園を経営する事業者に直接貸し付けることが可能になり、都市農地の多機能性が発揮できるようになると言える。


★2022年問題は本当にリスクなのか?

先に述べたとおり、生産緑地法の改正に伴う「特定生産緑地制度」の新設等の対策により、2022年という“時限爆弾”のリスクは、それほど大きくないと考える。
そもそも、住宅用地の供給には、その規模にもよるが、農地転用の届け出、開発許可、土地測量、地盤調査・改良、隣地所有者との境界確定、建築確認といった各種手続きから、建設計画立案、着工、販売まで相当な期間がかかるので、2022年になっていきなり大きな影響が出ることは現実的には少ないと言えるだろう。
ただ、生産緑地における営農者の高齢化・後継者不在・収益性などの問題を考えれば、生産緑地が住宅用地として今後徐々に非農地化される流れは間違いないと思われる。
人口減少に伴う宅地・住宅需要の縮小化により、農地転用の必要性が低下している現在、国の都市農地政策としての規制緩和・税制優遇を引き続き継続すること、さらには、より積極的に全国の農地・遊休地の積極的な有効活用を促す政策を実施することが求められるだろう。
都市部の農地・緑地を保全・拡大すること、農業従事者人口を維持・増加させること、科学技術を駆使したより生産性の高い農林水産業を国策として推奨すること、そのことが都市環境の維持・改良、都市災害の予防、さらには農林水産業という国力の根源の維持という観点からも重要であると考える。
そう考えると、ある意味宅地よりも、都市部における肥沃な農地・自然豊かな緑地こそが、価値のある資産になる未来が来るかもしれない。

★各立場からみた2022年問題について考える

(1)生産緑地を保有する都市農家の立場
2022年以降、農地所有者の高齢化でその子世代が同じ規模で営農を続けることが困難であることが予想できる場合は、いつでも生産緑地の指定を解除して非農地化・売却できるような備えをしておくことが大切になる。
生産緑地の指定を解除するタイミングで、農地所有者が認知症や大病で意思表示ができない状態であれば、成年後見制度を利用するという選択肢しかなくなり、後見制度を利用すれば、積極的な資産運用や相続税対策をすることができなくなるので、家族・一族にとっても大きなリスクになり得る。
そのための備え、つまり営農についても立派な「事業承継」であることを踏まえ、早めの後継者の準備や将来における営農計画(耕作規模を維持するのか、拡大するのか、縮小するのか)について家族・一族で議論を重ね、状況に応じて、家族信託や遺言、生前贈与、法人化、生前売買等の選択肢を計画・実行すべき。

(2)住宅の購入を検討している個人の立場
人口減の時代、コンパクトシティ構想が現実化する時代を見据え、不動産は立地が最大のポイントであることは間違いない。
立地の良い土地やマンションは、購入時の価格を維持するどころか値上がりする可能性がある一方、購入価格が安くても、将来の資産価値が低ければ、買い換え(住み替え)や売却して老後の資金に備えることができなくなるリスクがある。
駅から近いかどうかというよりも、これから過疎化が進まないエリアかどうかをきちんと見極めることが重要だろう。
一方で、国の金利政策(住宅ローン金利や税制優遇)や各家庭のライフプラン(この先、子育てや老後にいつ幾らくらいの資金が必要かというマネープラン)を踏まえ、住居を買うべきか借りるべきかのそもそもの判断も必須だろう。

(3)不動産業者の立場
昨今の「生産緑地の2022年問題」を話のネタに、農地所有者に対して不安をあおるような安易な営業戦略をする不動産業者は、農地所有者から信頼を得ることはできないだろう。
立地の良い土地の仕入れ競争はより激化していく中で、農地所有者や住宅購入希望者に対して、そのニーズを的確にとらえること、そしてそのニーズに対して取り得る選択肢をきちんと提示・比較検討して、自社に利益誘導することなくお客様にとっての最適な選択肢を提供できるプロフェッショナルだけが生き残ることができるだろう。
そのためには、ニーズを的確に汲み取るヒアリングスキル、様々な情報と選択肢を提案に活かすコンサルティングスキルがより一層求められる時代となるだろう。