税理士が「家族信託」に取り組むべき4つの理由
超高齢社会を迎え、老親が保有する財産について、「認知症発症による資産凍結」を防ぐ手立てや将来の「争族」を未然に防ぐ対策の必要性が叫ばれていますが、 その解決策の一つが「家族信託」です。
今回は、この「家族信託」という方策(選択肢)をお客様にご提案したり、具体的な家族信託の設計コンサルティングをするという業務について、税理士が取り組むべき理由をご紹介します。
今回は、この「家族信託」という方策(選択肢)をお客様にご提案したり、具体的な家族信託の設計コンサルティングをするという業務について、税理士が取り組むべき理由をご紹介します。
「家族信託」は、2007年に信託法が改正され、「信託」という手段が身近な財産管理の手法として使いやすくなったことを契機に広まっています。
典型的なケースは、老親が将来認知症や大病を患っても安心の老後を実現するために、子世代が主体となって、財産の管理と状況に応じた処分までを担い、さらにその先の円満・円滑な子世代への資産承継を目指すというものです。
税務コンサルティングの必要性と家族信託
月次決算と年1回の決算申告を主たる業務とする記帳代行・申告業務は、低価格化の一途をたどり、それだけでは将来的に先細りの業務となりかねないため、この先を見据えた、クライアントへの「税務コンサルティング」という付加価値サービスを提供することは、税理士の生き残りをかけた競争の中では必須と言えるでしょう。ただし、「税務コンサルティング」と一言で言っても、その内容は多岐にわたります。
企業の税務顧問に関しては、法人税・個人の所得税の節税対策はもちろん、株価対策も踏まえた事業再編・事業承継や株主対策(分散した株をどのように整理し経営を安定化させるか)などの問題解決へのアプローチがあるでしょう。
個人の資産税関係では、所得税・相続税対策の一環として、生前贈与、生前売買、資産の組換え、法人化、生命保険の活用などの施策が考えられます。
これらのコンサルティングに基づく計画遂行の一助になる、あるいは前提となる施策が「家族信託」です。
税理士が取り組むべき4つの理由
「家族信託」自体税務的な評価減・税額圧縮の効果がないことから、積極的に「家族信託」を学ぶ税理士は多くはありません。それでも、税理士が税務コンサルティングを業務の中核の一つに見据える場合には、「家族信託」を適切に理解し、クライアントへの提案に織り交ぜることは必須と言えます。
ここでは、税理士が「家族信託」に取り組むべき理由として4つお話したいと思います。
①コンサルティングに基づく各施策の頓挫リスクを回避
高齢の会社経営者・大株主・事業経営者・不動産オーナー等のクライアントに対して、 様々な節税対策・事業承継対策の提案・実行していく際に、その施策が頓挫するリスクを常に考える必要があります。
つまり、会社の大株主が認知症を罹患してしまうと、適法に株主総会を開催して決算承認決議等ができなくなりますし、数年以上かけて実行中の計画が途中で頓挫して、未遂に終わるケースも少なくありません。
特に60代以上のクライアントに対する税務コンサルティングを遂行するならば、まずリスク対策の一つとして「家族信託」を提案して、各施策の実効性を担保することは欠かせないでしょう。
②長期にわたりクライアントをグリップ
クライアントへの様々な施策の提案・実行に際して、計画頓挫リスク対策として「家族信託」を実行した場合、「家族信託」の設計にもよりますが、少なくともクライアント個人(受益者)の死亡まで継続する信託契約を実行するケースは多いです。
ご家族構成やニーズによっては、世代を跨いで何十年と継続する信託契約を実行することもあります。
そうなりますと、各施策の完遂にとどまらず信託契約が存続する限り、信託税務への対応を含め、事情をよく知る税理士が長期にわたり継続的な税務顧問を任される可能性は高いといえるでしょう。
③世代交代時に顧問契約を解除されない対策
先代が亡くなり、2代目社長に交代したタイミングで顧問税理士が取り換えられるという話は、どこにでもあります。 そもそも40、50代の新社長に顧問税理士が70、80代では、気軽に相談できないという理由もあるかもしれません。
そうであっても、顧問税理士として、後継者となる子世代との信頼関係を万全に築き、円滑な引継ぎがなされているケースはどれほどあるでしょうか?
「家族信託」は、高齢のクライアントの財産を後継者たる子世代が受託者として管理処分権限をもらうのが典型的な活用の仕組みとなりますから、当然に顧問税理士として後継者との顔合わせ、打合せが不可欠となります。
顧問税理士が現クライアントと後継者(次期クライアント)とを交えた中で税務コンサルティングを実行できれば、3者間での信頼関係の構築も容易なものとなります。
④クライアントの家族・親族もグリップし更なる業務拡大
前述の通り、「家族信託」の検討・設計において、クライアント個人とだけお打合せをしても話は進みません。
クライアントの家族(夫婦とその子世代)全員を当事者とする「家族会議」を招集して、その中で議論を重ねることが重要です。
「家族会議」では、クライアント(老親)本人の希望・“想い”を家族内でシェアするだけではなく、老親の保有資産や毎月の収支状況もできる限りオープンにしてもらっております。そして、それを受けて、老親を支える子側の希望・“想い”・覚悟も表明してもらいます。
このプロセスを踏むことで、家族内の微妙なわだかまりや不信感、将来への不安等をできる限り払しょくして、家族全員が資産承継に理解と納得をして、老親の老後とその先の将来に明るく向き合うことができるようになります。
この「家族会議」の場に、顧問税理士として家族信託に精通した法律職と一緒に同席することで、これまでの税務顧問としての立場に加え、クライアント家族全員から信頼される存在になる可能性は高いといえます。
もちろん、この「家族会議」に同席して、家族内の意見を調整し、“想い”のベクトルを合わせるお手伝いには、それなりのスキルが必要になることは確かです。
つまり、クライアント家族それぞれの方の将来ビジョン・人生観までも踏み込んで掌握するためには、信頼されることは勿論のこと、税理士本職又は会計事務所の担当者のコミュニケーション能力・ヒアリング能力が問われることになるでしょう。