宮田総合法務事務所

民法改正で相続後の配偶者に居住権?

18.01.30
暮らし・人生にお役に立つ情報
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2018年1月17日(水)の読売新聞朝刊の1面トップ記事で、民法の相続分野の見直しを議論する法制審議会の民法部会が民法改正の要綱案をまとめたとの記事が報道されました。


ここでは特に、約40年ぶりの相続制度の大改正により、我々の生活に直接影響しそうな改正案をご案内します。
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遺産分割時に「配偶者居住権」を新設

死別後に残された配偶者の生活を守るための目玉施策として、「配偶者居住権」を新設する案が出ています。
これは、高齢で残された配偶者が自身が亡くなるまで今の住居(自宅)に住み続けられる権利を確保しようという趣旨で、自宅の所有権をその配偶者以外(例えば長男など)が持っていたとしても、自宅を追い出されることなく当然の権利として住み続けられるというものです

現行の民法制度では、配偶者は遺産分割で自宅の所有権を得れば、理論上そのまま住み続けられます。しかし、自宅を含めた遺産に全体対しての配偶者の権利が2分の1であるので、自宅の所有権を配偶者が取得すると、その分他の遺産(現預金や有価証券など)の取り分が少なくなり、結果として生活費が十分に確保されない懸念が出てきます。

これに対し改正案では、自宅は所有権ではなく「配偶者居住権」として取得することで、売却してお金に替えられるような権利ではない代わりに、遺産としての評価額を小さくできるので、結果として配偶者は、他の遺産が従来より多く受け取れる(実質的な遺産の取り分が増える)ようになるというものです。なお、「配偶者居住権」の評価額は、配偶者の年齢の平均余命などから算出する予定だとのことです。

例えば、遺産総額が6,000万円の相続のケースで見てみましょう。遺産の内訳が、評価額3,000万円の自宅と、現預金その他の遺産が3,000万円とします。
現行制度では、子がいる場合の配偶者の法定相続分が2分の1なので、3,000万円相当が配偶者の相続できる財産となります。自宅の所有権を取得し住み続ける場合、自宅の評価額が3,000万円なので、理論上、その他の財産の取り分は無くなってしまいます。一方、「配偶者居住権」とする改正案の場合、その評価額を所有権評価の半分の1,500万円とするとすれば、配偶者は、その他の遺産から1,500万円もらえることになります。つまり、配偶者の取り分は実質的に増える。
これにより、自宅以外の遺産が少ない家族にとっては、配偶者が遺産分割のための自宅の売却処分を余儀なくされる事態を防ぎ、高齢の配偶者の生活の保護・安定化を図ることができそうです。

また、遺産分割の手続きが終わるまで、従来の自宅に無償で住み続けられる「短期居住権」も新たに設けることで、夫や妻が亡くなったときに、高齢の配偶者が売却や退去を迫られ、急に住居を失うことを避ける案も盛り込まれています。


手書きの遺言を法務局で保管

増加する遺産争いの減少に向け、自筆の遺言書(=自筆証書遺言)を全国の法務局が保管する制度の新設も盛り込まれました。

自筆証書遺言は、通常、自宅で保管するか、信頼できる相続人、法律専門職、金融機関等に預けるのが一般的でしたが、遺言者の死亡後に、必ずしもその遺言書が発見されないというリスクがありました。
現行制度でも、公証役場で作成する「公正証書遺言」は、全国の公証役場でその存在を調査できる検索システムが導入されていましたが、改正案では、自筆証書遺書も、全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言が存在を簡単に調査できるようにできます。

また、法務局で保管する際に、遺言者の署名押印などを確認することで、要件不備による遺言書の無効をある程度防ぐ手立ても講じます。
さらに、自筆証書遺言は、相続後に家庭裁判所で「検認」手続きを経なければ、遺言執行手続きが始められなかったのに対し、法務局に預ける場合には、「検認」手続きを不要にするようです。


相続人も被相続人も高齢化が急速に進む中、相続の準備段階で(いわゆる“老い支度”として)、老親本人とそれを支える家族がきちんと話し合って準備を進めること、そしてそこに改正民法や相続税制に精通したせんもんかを同席されることが今後ますます重要になってくると思われます。