司法書士法人 宮田総合法務事務所

『常連さん』への特別サービスはどこまで許される?

25.12.02
業種別【飲食業】
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飲食店の経営を軌道に乗せ、安定させるためには「常連客」の存在が欠かせません。
そんな常連客には、感謝の気持ちを込めて、小鉢を一品追加したり、裏メニューを提供したりと、ついサービスをしてしまいがちです。
しかし、常連客をひいきしてしまうと、常連ではないお客に不公平感を抱かせてしまう危険があります。
不公平だと感じたお客は、その後、店の扉を開けてはくれなくなるでしょう。
経営の安定化に不可欠な常連客へのサービスと、未来のお客を失うリスクのバランスについて考えていきます。

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特定のお客への特別扱いは諸刃の剣

何度も店に通ってくれるお客は、さまざまな面でありがたい存在といえるでしょう。
トータルで売上に貢献してくれるのはもちろん、良質な口コミの発信源となり、新しいお客を連れてきてくれることも少なくありません。

店に強い愛着を持ってくれている常連客に対し、一杯無料や大盛り無料、追加の一品や裏メニュー、新メニューの試食や割引など、つい特別なサービスをしてしまうのは無理もないことです。

また、こうしたサービスによって常連客が抱く「あのお店は特別扱いしてくれる」「自分の好みなどをわかってくれている」という満足感は、他店にはない強力な来店動機となり、店との間に強固な信頼関係を築き上げます。

しかし、この「特別扱い」は、非常に取り扱いのむずかしい諸刃の剣でもあります。
最大のデメリットは「ほかのお客が感じる不公平感」と、それに伴う「新規客・潜在顧客の離反」です。

たとえば、初めて入ったお店で、隣の席にだけ「これはサービスです」と豪華な一品が運ばれてきたら、どう感じるでしょうか。
あるいは、自分より後から来た客が「いつもの席ね」と奥の雰囲気がよい席に通され、自分は入り口近くの落ち着かない席に案内されたら、どうでしょう。
たとえお店側に常連客への純粋な感謝の気持ちがあったとしても、事情を知らないほかのお客から見れば、「常連だけが優遇される店」「自分は大切にされていない」と感じてしまうかもしれません。

このような疎外感を一度でも感じてしまえば、どれだけ料理が美味しくても、そのお客が「また来よう」と思う可能性は限りなく低くなるでしょう。

店は常に新しいお客が定着し、未来の常連客へと育っていく循環がなければいけません。
そうでなくては、既存の常連客が引越しや転職などのライフスタイルの変化で来られなくなる度に、先細ってしまうことになります。
常連客を大切にするあまり、その常連客を生み出す土壌である「新規客の定着」を妨害してしまうのは、経営的に見て本末転倒といえます。

一見客にも悪い印象を抱かせない接客とは

大切なのは、あからさまな「特別扱い」をせず、また新規客に不公平感を抱かせることもなく、常連客との絆を深めていくことです。
ポイントは、「モノ」による差別化ではなく、「コト(認識)」によるコミュニケーションにあります。

常連を大切にする飲食店が目指すべきは「あなたのことをきちんと覚えています」というメッセージを伝えることです。
たとえば、「〇〇様、いつもありがとうございます!」「前回召し上がった日本酒から、今日はお好きそうな新しいものをご用意していますよ」「◯◯様はわさびが苦手でしたよね、こちら抜いておきました」といった、お客の過去の来店履歴や好みに基づいた「会話」や「提案」です。
これらは、ほかのお客が耳にしても「よく来ている常連さんだから、お店の人が好みを覚えているんだな」と納得できる範囲のものです。
「ひいき」や「差別」とは受け取られず、むしろ「あのお店は、お客のことをよく見てくれる、サービスのよい店だ」というポジティブな印象につながる可能性もあります。

ただし、ここで細心の注意を払わなければならないのは、すべてのお客が積極的なコミュニケーションを望んでいるわけではないという点です。
一人で静かに食事やお酒の時間を楽しみたいお客や、過剰な接客そのものを好まないお客もいます。
そもそも店側に「自分のことを認識してほしくない」「覚えていてほしくない」というお客も少なくありません。

こうしたお客に対して、良かれと思って話しかけると、「放っておいてほしい」「監視されているようで居心地が悪い」と感じさせてしまう可能性があります。
大切なのは、お客一人ひとりの求める距離感を正確に見極めることです。
静かに過ごしたいお客には、あえて積極的な声かけは控えましょう。

飲食店の経営においては、お客が望む距離感に合わせた「配慮」が重要です。
不快感を与えることなく、ロイヤルティ(信頼感)を高めるためにも、特に何度も来店されているお客に対しては、入店時の様子やあいさつの反応などを観察して、そのお客のタイプに合わせた接客を心がけることが大切です。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。