成年後見や相続・家族信託に関するネットの誤情報にご注意!
インターネット上には、虚偽の情報、間違った噂、偏見と誤解に基づくコメントが沢山ありますが、成年後見や相続、家族信託に関する情報も同様です。
そこで今回は、成年後見・相続・家族信託に関するネットの情報について、代表的・典型的な実務と異なる間違った情報をご紹介します。
(1)法定後見制度では不動産が売れない
「法定後見制度を利用すると、本人(被後見人・被保佐人・被補助人)が所有する不動産が売れなくなる」というのは正確な情報ではありません。
法定後見制度を利用すると、確かに本人所有の不動産は、本人の意思と手続きだけは実質的に売却することは難しく、後見人(成年後見人・保佐人・補助人)の関与が原則として必要になります。
特に、居住用不動産(現自宅はもちろん、以前自宅だった不動産)については、家庭裁判所の許可が無ければ売却することができません。
ただ、このことをもって、法定後見制度を利用すると不動産が売却できなくなると結論付けるのは早計です。
後見人に求められるのは、後見人の行為(アクション)に対する合理性ですので、本人所有の不動産を売却することについての合理的な理由(介護費用の捻出の必要性、管理費用の増大リスク等)が存在すれば、自宅だろうと収益物件だろうと遊休不動産だろうと売却することは理論上可能と言えます。
その一方で、売却することについての合理性の有無を問わず、売却の自由度を確保したいのであれば、「家族信託」を利用した方が無難ということも言えます。
(2)任意後見なら自由度が高い
「任意後見なら自由に不動産が売却できたりして自由度が高い」というのも大きな誤解です。
法定後見制度との比較において、任意後見人に売却権限が与えられていれば、居住用不動産であっても家庭裁判所の許可が無く売却することができることをもって自由度が高いという印象を持つかもしれません。
しかし実際は、任意後見制度も法定後見制度も、法律で定められた国の「成年後見制度」であることには変わりがありませんので、任意後見人にだけ柔軟性があるというのは誤解です。
任意後見人の行う行為に対して合理性が求められるのは法定後見と同じです。
つまり、前述の通り、売却の自由度、財産管理の柔軟性・軽負担を確保したいのであれば、任意後見を検討するよりも、「家族信託」の利用を検討するのが正解と言えるでしょう。
(3)法定後見だと家族(親族後見人)は就任できない
既に判断能力が低下している方に対して、家庭裁判所に法定後見人の選任申立てをする場合、「後見人候補者となる配偶者や子、孫、甥姪がいても、後見人には家族は選ばれず、法律専門職(司法書士・弁護士など)が選任されることが多い。よって、任意後見契約を交わしておいた方が良い。」という論調の記事を比較的多く見かけます。
これも正確な記事ではないと言えます。
実際は、円満な家族・親族関係であること、そして後見人候補者が高齢ではなく、資質面も経済面も問題ないケース等では、親族後見人が選任されています。
つまり、これから判断能力の低下に備えた準備をする段階においては、「法定後見」では専門職後見人が選任されてしまうという理由だけで「任意後見」を選択するのではなく、本人の生活状況や将来的な生活環境への希望、家族構成及びその関係性、保有財産状況などに応じて、「任意後見」か、それとも「法定後見」で充分か、あるいはそもそも「家族信託」にすべきかについてしっかりと検討して、最適な選択肢を見極める必要があります。
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(4)認知症と診断されたら即口座凍結する
「認知症になったら、本人名義の預貯金口座が自動的・強制的に“凍結”される」と思っている方は案外多いです。
そもそも金融機関側は、口座名義人本人の体調・判断能力の程度について、タイムリーにきちんと把握できている訳ではありません。
したがいまして、口座名義人本人やその家族が、認知症等で判断能力が低下している旨を金融機関に告げない限り、金融機関がその事実を把握して口座を“凍結”することはありません。
その一方で、口座名義人本人が金融機関の窓口で払戻や送金手続きをしようとしたところ、判断能力の低下が原因で窓口の行員とコミュニケーションが取れないような事態、所定の用紙への署名ができないような事態が生じれば、その場で口座を“凍結”されてしまうことはあるかもしれません。
認知症と診断されたからと言っても、又は介護認定の介護度が高くついたからと言っても、悲観せずに、本人の理解力・判断力・コミュニケーション能力がどれだけ残っているかを踏まえて、今からやるべきこと・できることを速やかに検討・実行したいところです。
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(5)相続が発生したら即口座凍結する
「相続が発生したら、故人名義の預貯金口座が自動的・強制的に“凍結”される」と思っている方も少なくありません。
しかし実際は、口座名義人が亡くなっても自動的・強制的に口座が凍結されることは、原則ありません。
金融機関が取引を完全に停止し、預金の引出し、振込み、口座引落、年金・家賃等の入金等の一切ができなくなる事態になるのは(これを一般的に“預金凍結”・“口座凍結”と呼びます)、金融機関が口座名義人の死亡の事実を把握したときです。
つまり、通常は、家族・親族(遺族・相続人)が金融機関に対して、死亡の事実を届け出たことにより把握することが多いですし、うっかり金融機関に相続手続きの手順の相談をしてしまうことにより凍結してしまうケースもあります。
相続が発生しても、慌てて金融機関に連絡を入れる必要はなく、故人の口座から引き落としされているものや入金されているものを確認してから、預貯金口座の相続手続きをすべきタイミングを図るのが得策です。
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(6)家族信託の受託者なら暦年贈与ができる
家族信託を実行すれば、老親から預かった信託財産を受託者は自由に暦年贈与できる、というのは大きな誤解です。
受託者は、委託者たる老親から託された財産を受益者(通常は委託者=受益者=老親)のために管理し、財産給付をする役割・義務を負うことになりますので、受益者ではない者(受益者の扶養家族を除く)に対して、受託者が信託財産から給付をすれば、それは「忠実義務違反」になります。
従いまして、家族信託・民事信託を実行後にも暦年贈与をしたい場合は、受託者が管理する信託財産から、一旦受益者の固有財産を戻し、受益者自らが自分の判断と手続きにおいて通常の贈与(贈与契約の締結と財産の引渡し)をすべきということになります。
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(7)認知症なら家族信託できない
「認知症と診断された」としても、信託契約を締結する能力があるかどうか(本人に判断能力があるかどうか)について、公的な審査機関や客観的・普遍的な判断基準がある訳でもありません。したがいまして、家族信託契約などの認知症対策・相続(争族)対策ができないとあきらめるのはまだ早いと言えます。
例えば、家族信託の場合は、「受益権」やら「信託目的」「信託財産」「委託者」「受託者」「受益者」・・・等の難しい法律用語の理解は必要ないでしょう。
下記の㋐~㋓について理解をしていること、そして理解・納得していることが明確に意思表示できること、さらには下記㋐~㋓についての質問をいつ聞いても答え・方針が常に一貫しているのであれば、家族信託の契約は可能であると考えております。
㋐自分がどんな資産を持っているか
㋑自分の財産の管理・処分を誰に任せるか(管理処分権限を誰に託すか)
㋒管理と処分を任せてどうにしてほしいか
㋓自分亡き後に遺った財産は誰に渡したいか
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以上、今回は、成年後見・相続・家族信託に関するネットの情報について、代表的・典型的な間違い情報について、簡潔にご紹介しました。
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