司法書士法人 宮田総合法務事務所

雇用契約前に押さえたい、外国人労働者採用時の注意点とは?

25.08.12
ビジネス【企業法務】
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近年、労働力不足を背景に多くの企業が外国人労働者の採用を積極的に行なっています。
彼らの持つ多様な視点や能力は企業に新たな価値をもたらす一方で、採用や雇用管理の面では日本人従業員とは異なる法的な配慮が必要となります。
特に「在留資格の確認」「就労範囲の制限」「契約書の記載内容」「差別的取り扱いの禁止」など、事前に把握しておかないとトラブルにつながるケースも少なくありません。
今回は、中小企業が外国人労働者を雇用する際に押さえておくべき法的ポイントを、実務的な視点から解説します。

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在留資格の確認は『雇用主の義務』

外国人を雇用する場合、日本人とは異なり「在留資格」によって就労内容が大きく制限されます。
そのため、基本的な仕組みを理解しておくことが必要不可欠です。

まず、外国人を雇用する際には、必ず在留カードで「在留資格」と「就労可否」を確認しなければなりません。
在留資格は、就労活動を直接目的とした「就労系資格」、日本における身分や地位に基づき活動の制限を受けない「身分系資格」、原則として就労を目的としないが資格外活動によって一部就労が認められる「非就労系資格」に分類されます。

たとえば「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「高度専門職」などは就労目的の在留資格であり、それぞれの資格で認められた職務内容の範囲内であれば就労が可能です。
一方、「留学」「家族滞在」などは原則として就労が認められていませんが、地方出入国在留管理局から「資格外活動許可」を受けていれば、一定の範囲内(通常は週28時間以内)で働くことができます。
ただし、「家族滞在」の場合、資格外活動許可により週28時間以内での就労が可能ですが、風俗営業などに該当する業務は禁止されており、許可された内容と実態が乖離していないか注意する必要があります。

重要なのは、就労可能な在留資格であっても、その資格で認められた職務内容以外の業務をさせると違法となる点です。
資格と業務内容の整合性が取れていない場合、在留資格に基づかない活動とされ、不法就労とみなされる可能性があります。

就労資格の確認を怠った場合、企業側が「不法就労助長罪」に問われることもあります。
入管法第73条の2によれば、不法就労者と知りながら雇用した場合、雇用した企業に対して3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
さらに、不法就労を助長した企業は、今後の在留資格申請においてマイナス評価を受けることがあり、外国人材の採用に支障をきたすため、採用時の確認だけでなく、採用後も在留期間の更新状況や活動内容の適正管理が必要です。
特に、更新漏れによって在留資格の期限が切れると、不法滞在とみなされる可能性があるため、従業員の在留期間を管理するシステムの構築が重要となります。
また、「特定技能」「技能実習」「留学生アルバイト」など、在留資格によって制約が大きく異なるため、それぞれの資格に応じた適切な管理体制を整えることが求められます。

契約書と待遇面での注意点とは?

雇用契約書の作成も、外国人労働者を雇う際の重要なポイントです。
労働条件は労働基準法に基づき書面などで明示する必要があり、実務上は日本語での交付が一般的です。
ただし、外国人労働者が十分に理解できるよう、母国語訳を併記するなどの配慮が望まれます。

労働条件明示の項目は、日本人と同様に「就業場所・賃金・労働時間・契約期間」などすべて記載する必要があります。
日本の労働関係法令(労働基準法、労働契約法など)は、国籍にかかわらず日本国内で働くすべての労働者に適用されるため、口頭での取り決めやあいまいな契約は避けるべきです。

特に注意が必要なのは、賃金や労働時間に関する取り決めです。
最低賃金法や労働基準法の規定は外国人労働者にも適用されるため、地域の最低賃金を下回る賃金設定や、法定労働時間を超える長時間労働は違法となります。
また、住居や食事などを賃金から控除する場合は、労使協定の締結と本人の同意が必要です。

次に、差別的取り扱いの禁止も重要なポイントです。
法令上、外国人労働者に対して合理的な理由のない不利益な取り扱いを行うことは、外国人雇用対策法などに照らして不適切とされ、場合によっては違法と判断される可能性もあります。
特に昇給、賞与、解雇、福利厚生面での「暗黙の差別」が問題視されやすく、労使トラブルの原因となることがあります。
たとえば、日本人従業員には支給される通勤手当や家族手当を外国人従業員には支給しないといった扱いは、合理的な理由がない限り、差別的な取り扱いとして問題となる可能性があります。

労使トラブルを未然に防ぐには、社内ルールや運用の透明性確保がカギとなります。
評価基準や昇給・賞与の決定プロセスを明確にし、外国人従業員にもわかりやすく説明することで、不公平感を軽減することができます。
また、定期的な面談や相談窓口の設置など、コミュニケーションを促進する仕組みづくりも効果的です。

外国人労働者の採用は、企業にとって多様な価値をもたらす一方、法的リスクも伴います。
在留資格の確認や契約書の整備、待遇面での公平性を意識した運用が、中小企業における健全な人材活用につながります。
「知らなかった」では済まされない雇用リスクを回避するためにも、制度の基本をしっかり押さえた採用・管理体制の構築を心がけましょう。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。