事故の示談書にサインした後でも取り消せる?
交通事故などで示談書にサインすると、一般的には「問題がすべて解決した」と考えられがちです。
しかし、示談成立後に予想外の後遺症が発生するケースは少なくありません。
多くの人が「一度サインした示談書は覆せない」と諦めてしまいますが、実際には状況によっては再交渉や追加請求が可能な場合があります。
今回は、示談書の法的効力と限界、後遺症が判明した場合の対応策、そして示談時に知っておくべき実務的なポイントについて解説します。
示談後でも追加請求はできる?
示談とは、当事者間で損害賠償などについて話し合いにより合意し、争いを終結させる契約のことです。
一般的に、示談書にサインすると、原則として追加請求や撤回はできなくなります。
これは、示談が民法上の「和解契約」と位置づけられ、法的拘束力を持つためです。
しかし、すべての示談が絶対的というわけではありません。
「示談を成立させる意思がなかった」「詐欺や脅迫によって示談に応じた」「重大な錯誤があった」などの場合は、示談の無効や取り消しを主張できる可能性があります。
特に重要なのは、示談時に予測できなかった損害が後から発覚した場合です。
このようなケースでは、一定の条件下で追加請求が認められることがあります。
たとえば、示談書に「後遺症が出た場合は別途協議する」「将来において症状が悪化した場合はあらためて交渉する」などの文言が含まれていれば、再交渉の余地が広がります。
注目すべきは、示談書にそのような文言がなくても、当初予見困難だった症状や損害が後から発覚した場合には、追加請求が認められた例があることです。
特に「症状固定前の示談」については、その後の症状変化を予測できないとして、示談の効力が制限される傾向にあります。
実際の裁判例では、事故から10日経たずに「これ以上の治療費は支払わない」という条件で示談した後、症状が悪化したケースで、裁判所が「示談時において予想できなかった後遺障害に関しては、示談後も損害賠償請求権を行使することができる」として追加の損害賠償を認めたケースがあります。
このように、一度示談が成立していても、その効力には一定の制限があることを知っておくことが重要です。
特に、予見不可能だった症状の発生は、再交渉の重要な根拠となり得ます。
示談時に押さえておくべきポイント
示談時に注意すべきポイントとして、まずタイミングの問題があります。
原則として、「後遺症が残る可能性がある段階」での示談は避けるべきです。
医師から「症状固定」の診断が出るまでは、将来の症状変化を正確に予測することがむずかしいため、示談を急ぐことはリスクが高いといえます。
可能であれば、症状固定を待ってから示談交渉に臨むのが望ましいでしょう。
特に頭部や頸部の損傷がある場合、初期段階では軽症に見えても、後に重篤な症状が現れるケースがあります。
保険会社からの早期解決の働きかけがあっても、医学的な見通しが立つまでは慎重に対応することが大切です。
示談書の文言にも注意が必要です。
「今後一切の請求を放棄する」「本示談に関して異議を述べない」といった包括的な免責条項が含まれている場合、その効力は強く、後から覆すのがむずかしくなります。
示談書にサインする前に、このような文言がないか、または「症状悪化時の再協議」について明記されているかを確認しましょう。
また、将来のトラブルに備えるためには、証拠の確保も極めて重要です。
診断書や治療経過記録、レントゲンやMRIなどの画像診断結果を保存しておくことが、後遺症と事故との因果関係を立証するうえで不可欠となります。
特に「事故以前には存在しなかった症状」であることを示す資料は、追加請求時に大きな力となります。
保険会社任せにせず、自分でも示談内容を確認・保存しておくことも大切です。
示談書のコピーはもちろん、交渉過程のメモや記録も残しておくと、後の交渉で役立つことがあります。
専門家への相談も、トラブル回避・対処の有効な手段です。
弁護士などの専門家は、示談の適切なタイミングや内容についてアドバイスしてくれるだけでなく、後遺症が発生した場合の対応策も提案してくれます。
交通事故に強い弁護士であれば、類似の事例に基づいた具体的な助言も期待できるでしょう。
一度サインした示談書でも、状況によっては再交渉の余地があります。
特に後遺症など、事故当初に予測できなかった症状が出た場合には、法的な救済を受けられる可能性があります。
示談は単なる書類ではなく、将来の権利を左右する重要な契約です。
安易にサインせず、内容やタイミングを慎重に見極めることが、トラブルを防ぐカギとなります。
※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。