司法書士法人 宮田総合法務事務所

『ストレスチェック』が全企業に義務化へ! 企業の対応は?

25.08.12
ビジネス【労働法】
dummy

「ストレスチェック」とは、医師や保健師らが企業の労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査です。
労働安全衛生法では、従業員が常時50人以上の事業所に対してストレスチェックの実施を義務づけています。
そして、2025年の同法改正により、従業員50人未満の事業所も段階的にストレスチェックが義務化される予定です。
従業員の心の健康は企業の持続的な成長に欠かせない要素です。
義務化に向けて、対象となる企業が今から行うべき準備について、解説します。

dummy

ストレスチェック義務化の対象拡大の背景

近年、働く人々のストレスは多様化し、メンタルヘルス不調を訴える労働者の数も増加傾向にあります。
厚生労働省の労働安全衛生調査によれば、メンタルヘルス不調により休業または退職した労働者がいる事業所の割合は、2020年は9.2%、2021年は10.1%、2022年には13.3%に達しています。

この傾向は大企業に限らず、中小企業においても同様です。
中小企業においては、人材が限られていることや、専門的な相談機関へのアクセス方法が少ないことなどから、一度メンタルヘルス不調者が発生すると、その影響がより深刻になるケースも少なくありませんでした。

そこで、労働安全衛生法の改正によって、現在は努力義務となっている従業員50人未満の事業所についても、ストレスチェックの実施が今後義務化される見通しです。
2025年5月8日に改正労働安全衛生法が可決・成立され、3年以内(2028年まで)に施行される予定です。

この義務化によって、小規模な事業所においても、従業員の心の健康を守るための体制づくりが進められることになります。
これまで大企業では、産業医の選任義務やストレスチェックの義務化など、法に基づいた健康管理体制が整備されてきました。
しかし、従業員50人未満の小規模な事業所では、これらの法的な義務がなかったため、健康管理体制に差が生じていました。
ストレスチェックの義務化は、企業間における健康確保の格差をなくし、すべての労働者が一定水準のメンタルヘルスケアを受けられるようにするための重要な一歩となります。

ストレスチェックの中身と実施する目的

新たに対象となる事業所は、どのような準備を行えばよいのでしょうか。
大切なのは、ストレスチェックの具体的な中身を把握することです。

ストレスチェックとは、医師や保健師などの専門家によって実施される心理的な負担の程度を把握するための検査です。
検査は主に質問票形式で行われ、仕事内容、人間関係、職場環境などのストレス要因、ストレスによる心身の反応、そして周囲からのサポート状況などについて、従業員が回答します。
回答内容は、個人情報保護の観点から、原則として事業者へは本人の同意なしには提供されません。

この年1回のストレスチェックを行うことで、従業員は自身のストレスの状態を把握し、セルフケアに役立てたり、高ストレスと判定された場合には医師による面談指導を受けたりすることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことができます。

対象の事業所が義務化に向けて準備すること

従業員50人未満の事業所にとって、ストレスチェックは新たな取り組みとなります。
まずは、ストレスチェックを実施するにあたり、具体的な実施時期や方法、高ストレス者への対応フローなどを検討し、計画を立てる必要があります。

特に実施者の選定は重要です。
ストレスチェックを行えるのは、医師か保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、公認心理師、精神保健福祉士、歯科医師などに限られています。
自社に該当資格を持つ従業員がいない場合は、外部機関への委託を検討しましょう。

このストレスチェックは、年1回以上の実施が義務づけられていますが、実施時期は自由に設定できます。
従業員の業務負荷が少ない時期や、定期健康診断と同時期に実施するなど、効率的なタイミングを検討しましょう。
また、ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員に対しては、医師による面接指導の機会提供や、必要に応じた職場環境の改善策の検討など、具体的な対応フローをあらかじめ定めておくことが重要です。

同時に、制度の導入にあたり、就業規則や安全衛生規程などの社内規定にストレスチェックに関する事項を明記しておきましょう。
こうした規定は制度内容とあわせて、従業員に丁寧に説明し、理解を促すことが大切です。

ストレスチェックの実施は、労働安全衛生法で実施が義務づけられていますが、未実施そのものに罰則はありません。
しかし、実施しなかった場合、安全配慮義務違反と判断される可能性があります。
さらに、ストレスチェックの実施後は、所轄の労働基準監督署へ報告する必要があり、これを怠ったり虚偽の報告をしたりすると、労働安全衛生法違反となり、最大50万円の罰金が科される場合があります。

新たな制度の導入には手間やコストがかかるかもしれませんが、しっかりと準備して実施すれば、ペナルティを受けることもありません。
従業員の心の健康は、企業の生産性の向上や離職率の低下にも影響します。
対象となる事業所は、義務化に向けて今から具体的な準備を進め、必要に応じて外部の専門機関のサポートも活用しながら、従業員が安心して長く働ける職場環境づくりに取り組んでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。