司法書士法人 宮田総合法務事務所

状況によって価値が変わる『文脈効果』の活かし方

25.06.10
ビジネス【マーケティング】
dummy

マーケティングの世界では、商品の見せ方や伝え方一つで、顧客の購買意欲が大きく変わることがあります。
たとえば、同じ商品でも高級感あふれる場所で展示するのと、雑多な場所で展示するのでは、顧客が感じる価値は大きく異なります。
このように、前後の状況や情報の提示順序によって、顧客の商品のとらえ方や評価が変わる現象を「文脈効果」と呼びます。
マーケティングに活用することで、商品の魅力を最大限に引き出し、顧客の購買意欲を高めることができる文脈効果を学びましょう。

dummy

マーケティングに重要な文脈効果の活用法

「文脈」とは、一般的に文章や発言の前後に関係する流れのことをいいますが、話題となっている状況や背景、環境なども文脈に含まれることがあります。
そして、文脈という言葉から発生した「文脈効果」は、ある対象に対する評価や認識が、その前後の状況や情報によって変化する心理現象のことを指します。
もともと、文脈効果はアメリカの認知心理学者であるジェローム・シーモア・ブルーナーが提唱した概念で、これまで心理学や認知科学の分野で研究されてきました。

人は常に周囲の状況や過去の経験など、さまざまな文脈のなかで物事を認識し、判断しています。
そのため、同じ対象であっても、置かれた文脈が異なれば、その評価や認識も変わります。
マーケティングにおいても、文脈効果を理解して活用することで、顧客の購買行動を効果的に誘導できる可能性があります。

たとえば、最初に提示された価格は、その後の価格判断に影響を与えることがあります。
高額な商品の後に続く形で、安価な商品を並べて陳列することで、多くの顧客は安価な商品を実際の値段以上に「安い」と感じるでしょう。
この心理的な作用は「アンカリング効果」ともいわれ、文脈効果の一つです。
いきなり3,000円の商品だけを見せられるより、最初に10,000円の商品を見せてから3,000円の商品を見せた方が、顧客は「お得に感じる=買いたくなる」というわけです。

また、器や陳列を変えることで商品価値を高めるという文脈効果もあります。
同じ料理でも、プラスチックの皿に盛るのと、美しい陶器の器に盛るのとでは、高級感や希少性が変わってきます。

さらに、キャッチコピーやラベルなどにも、文脈効果は使われています。
「このヨーグルトは脂肪分が30%含まれています」と「このヨーグルトは脂肪分を70%カットしています」では、伝えていることは同じでも、後者のほうがより「ヘルシーそう」と感じるのではないでしょうか。
商品の価値は、値段や器、プレゼンテーションなど、「文脈」次第で印象を大きく変えることができるということです。

差別化を図れる文脈効果には注意点も

独自の文脈をつくり出すことで、競合他社との差別化を図ることもできます。
たとえば、「スターバックス」は単なる「コーヒーを売る店」ではなく、家でも職場でもない「第三の居場所(Third Place)」という文脈を構築し、ほかのカフェチェーンとの明確な差別化に成功しました。
アイスクリームの「ハーゲンダッツ」は、高価格帯であることを逆手にとり、「贅沢」「ご褒美」といった文脈を演出し、「ただのアイスではない」という提案を行いました。
このように、文脈効果による差別化は、単に機能や価格で勝負するだけではなく、その商品が存在する理由や意味を、独自の物語として提示することだといえます。

ただし、ストーリー性もマーケティングにおける文脈効果の重要な要素ですが、注意も必要です。
文脈効果としてストーリーを構築する際は、倫理的な配慮をしなければいけません。
虚偽のブランディングによって、顧客を欺いたり、不当な利益を得たりするような行為は避けるべきです。
たとえば、プレミア感や高級感を演出するのは文脈効果の王道ですが、産地をごまかしていたり、原材料が極端に安価なものだったり、内容に実態が伴わないと、見せかけによる不当表示と判断される可能性があります。

また、「残りわずか」や「レア」という売り文句は『希少性』という物語をつくることで、購入を促す文脈効果のテクニックの一つですが、実際には在庫がたくさんあるのに「残りわずか」と見せるのは誤認を招く表示で、やはり不当表示に該当するおそれがあります。

文脈効果はマーケティングにおいて非常に強力なツールとなり得るからこそ、倫理的な配慮を忘れずに、顧客にとって有益な情報を提供することが重要です。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。