司法書士法人 宮田総合法務事務所

企業が『労働組合』と協力関係を築くメリット

25.06.10
ビジネス【労働法】
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近年、労働組合に加入する労働者の割合が減少傾向にあります。
しかし、労働組合は労働者の権利を守り、労働条件の維持・改善を求めるうえで重要な組織です。
労働組合法は、労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障し、労働者が会社と対等な立場で交渉できるようにすることを目的としています。
企業としては、労働組合との関係を敵対的なものではなく、協力的なパートナーシップとしてとらえることで、多くのメリットが生まれます。
労働組合の基礎をおさらいしつつ、企業が労働組合と協力関係を築くことによる具体的な利点を解説します。

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労働組合の基礎と企業が注意するべきこと

厚生労働省の調査によると、2024年6月30日時点で、労働組合に加入する労働者の割合(推定組織率)は16.1%と、前年(16.3%)から0.2ポイント低下し、過去最低を更新しました。
1980年代前半には30%台だった労働組合の組織率は、産業構造の変化や非正規雇用の増加などに伴い、減少し続けています。
一方で、パートタイムで働く組合員は146万3,000人と、前年より5万3,000人(3.8%)増加し、過去最高となりました。
パートタイム労働者の全労働組合員数に占める割合は14.9%で、前年より0.6ポイント上昇しています。
このように、労働組合のかたちも時代に合わせて変化していると見られます。

労働者の権利を守る労働組合は、労働者が主体となって労働条件の維持・改善などを目的として組織する団体と定義されます。
労働組合の種類は主に3つに大別され、企業ごとに組織された労働組合を「企業別労働組合」、同じ産業の労働者が集まって組織された労働組合を「産業別労働組合」、個人加盟制でさまざまな業種の労働者が加入できる労働組合を「合同労働組合(ユニオン)」と呼びます。
日本の労働組合の多くは企業別労働組合で、特定の企業の正社員を対象にしています。
大企業では労働組合があることが多いものの、中小企業では組織率が低く、そもそも加入できる組合がないケースも少なくありません。
自社に労働組合が存在しないため、産業別労働組合や合同労働組合に加入する労働者もいます。

企業としては、こうした労働組合と賃金や労働時間などの労働条件について交渉を重ねることになります。
労働組合法では、労働組合との団体交渉に応じる義務や、労働組合の運営に対する不当な介入の禁止などが定められています。
これらの義務に違反した場合、不当労働行為として法的責任を問われる可能性があるので注意してください。

労使間のコミュニケーションにも重要

企業と労働組合は、労働条件について交渉するうえでは対等な立場です。
立場の違いから対立することもありますが、本来は敵対関係ではなく、協力関係を築くべきパートナーといえるでしょう。
労働組合は労働者の意見を集約し、会社に伝える役割を担っており、会社の健全な発展に貢献する可能性を持っています。
では、企業にとって、労働組合と協力関係を築くことで、どのようなメリットが考えられるでしょうか。

一つに、労使間のコミュニケーションの円滑化があります。
労働組合との定期的な協議や交渉を通じて、労使間のコミュニケーションが円滑になれば、労働者の不満や要望を早期に把握し、問題が深刻化する前に適切な対応を取ることができます。
従業員が個人的に言い出しにくいことでも、労働組合を通してであれば意見を伝えやすくなりますし、その意見が会社に受け入れられることで、エンゲージメントが高まり、組織全体の活性化につながるでしょう。
厚生労働省の「令和元年(2019年)労使コミュニケーション調査の概況」によると、労働組合がある企業は、存在しない企業と比べて、労使関係が安定的に維持されていると回答する割合が高い傾向にありました。
労働組合の存在による労使間の円滑なコミュニケーションが、労働問題やトラブルの未然防止に寄与する結果となっています。
訴訟や労働争議などのリスクを回避できれば、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。

また、労働組合との交渉を通じて、労働時間、賃金、安全衛生などの労働条件を改善することで、労働者のモチベーションや生産性を向上させることができます。
結果として、働きやすい職場環境になり、優秀な人材の確保や定着につながります。

さらに、労働組合との協力関係は、企業の社会的責任を果たすうえで重要な要素となります。
労働者の権利を尊重し、健全な労使関係を築くことで、企業の社会的信頼性を高めることにもなるでしょう。

労働組合は会社の健全な発展を支える重要なパートナーです。
協力関係を積極的に築き、労使間の信頼関係を構築することで、さまざまなメリットを享受できるようになります。
ただし、労働組合との関係構築は一朝一夕にできるものではありません。
根気強く、誠実な対応を続けることが重要です。
必要に応じて、専門家にも助言を求めるようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。