司法書士法人 宮田総合法務事務所

肉を『レア』や『生』で食べることに潜む食中毒リスクとは

25.03.04
業種別【飲食業】
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近年、レアハンバーグやレアとんかつ、レアチャーシューなど、『レア』や『生』を売りにした飲食店が注目を集めています。
しかし、集客に成功している店舗がある一方で、SNSなどを中心に『炎上』を招いてしまう店も少なくありません。
肉の生食には、常に食中毒のリスクがつきまといます。
食中毒のリスクは飲食店の経営者であれば、必ず把握しておかなければいけません。
今回は、肉の生食による食中毒のリスクについて、その実態と対策を解説します。

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肉の生食に関する規制と指導

食の多様化や、新しい食体験を求める消費者のニーズの高まりなどによって、肉を生の状態やレアで提供する飲食店が増えています。
ハンバーグをあえて中身が生焼けのレア状態で提供し、断面を鉄板に押し付けて『追い焼き』するスタイルのハンバーグ店は、連日行列ができるほどの人気です。
こうした肉の生食を可能にしているのは、徹底した殺菌や温度管理によるものです。
管理が不十分な非加熱の肉は、食中毒のリスクが高く、飲食店として絶対に提供してはいけません。

ここ数年で、中心部がピンク色になった、いわゆる『レアとんかつ』が話題になりましたが、SNSでは絶賛の声と同時に、加熱不足であることを不安視する声も相次ぎました。
2022年1月には食品安全委員会が管轄の保健所に対して、該当の店を注意するように促しています。
また、2024年12月には、レア状態のハンバーグを提供していた店が、保健所からの指導を受け、該当メニューの販売中止を発表しました。

食品衛生法では2015年6月12日から、豚の肉や内臓を生食用として販売・提供することを禁止しており、中心部まで加熱するように指導しています。
牛レバーや鶏肉に関しても生食用は流通しておらず、牛肉は食品衛生法で定められた規格基準を満たしたものだけが流通しています。
ただし、鹿児島などで食べられている鳥刺しについては、鹿児島県が独自に「生食用食鳥肉の衛生基準」を設けており、その基準に適合した鶏肉のみ、刺身として提供することが認められています。

生肉に潜んでいる危険な食中毒菌

そもそも生肉には、サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌(O-157)、カンピロバクター属菌、黄色ブドウ球菌など、食中毒の原因となるさまざまな細菌が潜んでいる可能性があります。
これらの細菌は、加熱不十分な肉を摂取することで、人体に侵入し、食中毒を引き起こします。
食中毒の症状としては、腹痛、下痢、嘔吐などが一般的ですが、重症化すると、高熱、脱水症状、さらには死亡に至るケースもあります。

過去には、飲食店で提供された生肉を食べた客が食中毒になり、死亡するといった事故も発生しています。
2011年に焼肉チェーンで発生した集団食中毒事件では、客の計181人が発症、うち5人が死亡したことにより、生食用食肉の規格基準が見直され、牛レバーに関しては2012年7月から販売が禁止される事態に発展しました。

食中毒が発生した場合に、飲食店は行政からの指導や営業停止処分を受ける可能性があります。
また、食中毒の被害者から損害賠償請求を受けるケースもあります。
行政処分や損害賠償請求によって、店の評判は大きく損なわれ、顧客の減少につながるおそれもあるでしょう。
管理体制を見直して営業を再開する飲食店もありますが、そのまま廃業してしまう店も少なくありません。
実際に、集団食中毒事件を起こした焼肉チェーンは廃業を余儀なくされています。

食肉を提供する際に気をつけたいこと

飲食店は食品衛生法に基づき、安全な食品を提供する義務があります。
カンピロバクターなどの菌は肉の内部にまで存在するので、豚肉や鶏肉などは中心部まで加熱しないと、食中毒のリスクが高くなります。
75℃で1分以上を目安に、中心部の色が変わるまで加熱するようにしましょう。

また、肉を調理したまな板や包丁はその都度、洗って消毒することが重要です。
調理済の生肉を保管する際も、ほかの食材と触れないように気を配り、密閉することで食中毒のリスクを下げられます。

牛肉に関しては、食中毒菌が表面に付着しているため、表面と側面をしっかり焼けば、レアステーキとして提供が可能です。
ただし、時間が経つと内部まで菌が浸透するので、提供には十分な注意が必要です。
また、鹿や猪などのいわゆるジビエと呼ばれる食肉も、生食はE型肝炎などのリスクがあるため、非加熱の状態での提供は避けなければいけません。
レアな肉や生焼けの肉にはリスクがあることをよく理解して、適切な管理と調理を徹底したうえで、お客に提供するようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。