全体の3~5割を占める建設現場の『三大災害』を防ぐには
建設業界では毎年多くの現場で労働災害が発生しています。
全体の死亡者数は年々減りつつありますが、休業4日以上の死傷者数などは増加傾向にあります。
建設現場ではさまざまな災害が発生しますが、特に気をつけなければならないのが「三大災害」です。
三大災害とは「建設機械・クレーン等災害」「崩壊・倒壊災害」「墜落・転落災害」を指し、これらは建設現場における死傷事故の大きな要因となっています。
事業者であれば把握しておきたい三大災害の防止策について解説します。
労働災害の発生状況と三大災害
近年は少子高齢化が進み、熟練工の減少や若年層の労働力不足が深刻化しており、労働災害発生のリスクはますます高まっています。
厚生労働省が2024年5月に公表した「労働災害発生状況」によれば、2023年1月から12月までの間の労災の発生状況について、死亡者数は755人と過去最少を記録したものの、休業4日以上の死傷者数は13万5,371人と、3年連続で増加しました。
建設現場における労働災害は、企業の評判を大きく損なうだけでなく、従業員とその家族の生活を大きく変えてしまう可能性があります。
事業者はさまざまな取り組みによって、強い覚悟で労災の発生を防がなければいけません。
そのような建設業の労災のなかでも特に注意が必要なのが、労災の3~5割を占めるといわれている三大災害です。
三大災害のうち「建設機械・クレーン等災害」は、重機やクレーンなどの操作ミスや、点検不足が原因で発生する災害です。
過去には、解体工事現場で解体用機械を運転中に運転席から身を乗り出したため、運転席とアタッチメントの間に挟まれて死亡する事故がありました。
「崩壊・倒壊災害」は建物が倒壊したり、土砂崩れが発生したりすることが原因で発生する災害です。
工事中に崩壊した土砂に巻き込まれる事故は、今も全国各地で発生しています。
そして、「墜落・転落災害」は、高所での作業中に足場が崩れたり、安全帯を着用していなかったりすることが原因で発生する災害です。
墜落・転落災害は三大災害のなかでもっとも発生件数が多く、死亡災害発生のリスクも高いという特徴があります。
また、事業者の責任が問われることもあります。
2024年10月には、作業員が高さ約11メートルの足場から墜落した事故について、安全措置を講じなかったとして、事業者が労働安全衛生法違反の疑いで書類送検されました。
建設業での三大災害を防ぐためには
三大災害が起きるのは、安全意識の欠如と作業手順の不遵守が大きな原因であるといわれています。
事業者による安全教育が不十分であったり、安全対策が徹底されていなかったりすると、作業員が各自の判断で動いてしまい、安全性を確保することができません。
三大災害は、定期的な安全教育と適切な作業計画の策定を行い、全従業員に安全意識を浸透させることで、ある程度は防ぐことができます。
より具体的に「建設機械・クレーン等災害」を防ぐには、重機の立入禁止の範囲をあらかじめ定めて、標識などで掲示しましょう。
機械の側には監視人を配置し、車両系の建設機械をバックさせる際も誘導なしで行わないようにします。
当然、移動式クレーンの運転や玉掛け作業などは無資格者にやらせてはいけません。
「崩壊・倒壊災害」は、設備の老朽化や雨や風といった天候不良なども発生の要因となります。
雨によって土砂崩壊の危険がある場合は、ただちに作業を中止しなければいけません。
落下のおそれがある構造物は、事前に移設して安全を確保する必要があります。
「墜落・転落災害」は、フルハーネスの墜落制止用器具の装着をはじめ、手すりや覆いなどの設置で防ぐことができます。
なお、旧規格の安全帯(墜落制止用器具の旧称)は2022年1月2日から使用が禁止されているので、墜落制止用器具の規格を確認しておきましょう。
また、一定の高さがある作業場には、昇降設備なども設けておくと安心です。
こうした災害の一番の防止策は、毎日の作業前に危険予知活動を行い、潜在的な危険を全員が把握することです。
設備を定期的に点検・整備することで、安全意識を高めることにもなります。
ほかにも、元請け・下請け間の連携を強化して安全に関する情報を共有することで、災害が発生する確率を下げることができます。
建設現場の安全対策は、作業員の意見なども聞きながら、常に改善していきましょう。
労災の約9割は不安全な状態と不安全な行動が合わさった際に発生しています。
三大災害を防ぐためには、事業者が安全に対する強い意識を持ち、全作業員が一体となって安全対策に取り組んでいくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。