介護スタッフ定着のための適切な『退職金制度』とは!?
現代の労働市場において、「転職」は当たり前の時代といわれています。
その理由として、終身雇用制度という考え方が崩れ、「転職」に対して否定的なイメージを抱く人が減ったことが大きく影響しています。
また、そのほかにも、給与や福利厚生面での待遇の向上を期待する人や、ライフスタイルに合った働き方を求める人が増えたことなどがあげられます。
介護業界でもキャリアアップや待遇改善を求めて転職する方が増えており、介護事業所として人材の流出防止の対策を取る必要があります。
今回は、その対策の一つとして「退職金制度」の導入と見直しについて解説します。
医療・福祉分野の退職金制度導入は7割以上
退職金制度とは、従業員が退職する際に勤続年数や役職、地位、在職期間中の業績などに応じてお金を支給する制度です。
退職金には、本来、退職後の生活保障や長期間の勤務に対する慰労、会社への貢献や功績に対する報奨、賃金の後払いなどの意味があります。
退職金の支給は、労働基準法で定められた制度ではなく、会社が自由な裁量で導入するかどうかを決定することができる制度であるため、必ずしも導入する義務はありませんが、就業規則や退職金規程などに支給を明記した場合や、慣例的に支給している場合などは支払う義務が生じます。
厚生労働省が発表した「令和5年就労条件総合調査」によると、医療・福祉分野で退職金制度がある事業所の割合は75.5%という結果でした。
ちなみに同調査では全産業平均が74.9%となっており、医療・福祉分野の退職金導入率とほぼ同水準であることがわかります。
しかし、多くの介護事業所はコロナ以降の景気低迷や物価高による影響を受けているため、自社の経営状況に見合った退職金制度を整備することが求められます。
退職金制度の種類とその内容
退職金と一言でいっても、さまざまな制度があります。
主な退職金制度は下記の通りとなります。
(1)退職一時金制度(社内積立)
会社が、退職金の原資を独自に積み立て、従業員の退職時に支給する制度です。
内容を自由に設計できるため、これまで一般的な「退職金」制度として多くの企業に導入されていましたが、資金繰りや経営状況の悪化により支払えなくなるというリスクがあります。
従来は、「基本給×勤続年数×支給率」というような計算式での退職金が一般的でしたが、近年では、ポイント制や基本給連動型、貢献度反映型など多様な制度設計により活用の幅が広がっています。
(2)退職金共済制度
自社で退職金を準備するのが困難な中小企業のための退職金制度です。
自社で資金管理するのではなく、外部機関で積み立てる仕組みで、独立行政法人勤労者退職金共済機構の運営する「中退共(中小企業退職金共済)」が一般的です。
中退共制度は、会社と中退共が退職金共済契約を締結して毎月の掛金を納め、従業員が退職した際は、中退共から従業員に直接退職金が支払われます。
また、社会福祉施設には「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」があります。
「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」とは、独立行政法人福祉医療機構が運営している退職金制度で、社会福祉施設などで働く職員が退職した際に、職員に対して退職手当金の支給を行う制度です。
退職金の財源は「共済契約者(施設経営者)」が負担する掛金と、国や都道府県の補助金によって賄われており、令和5年度現在で約880,000人の職員が加入しています。
(3)確定給付企業年金制度(DB:Defined Benefit Plan)
会社が、従業員との間で給付の内容を事前に契約し、高齢期に従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる企業年金制度です。
確定給付企業年金制度では将来の給付額があらかじめ決まっているため、運用で損失が出た場合は、企業が補填しなければならないというリスクがあります。
(4)確定拠出年金制度(DC:Defined Contribution)
会社が掛金を毎月積み立て(拠出)し、従業員がみずから掛金を運用することにより将来の給付額が決まる制度です。
従業員の資産運用により、受取額が変動します。
そのため、運用によっては資産が減ってしまう可能性があり、元本割れのリスクがあります。
会社負担分の掛金は、全額損金算入することができ、従業員が負担する掛金は税制優遇などが受けられるというメリットがあります。
「転職」が一般的になった時代において、従来の終身雇用制度に基づいた退職金制度では介護スタッフのニーズに応えることはできません。
介護人材の定着を図り、従業員のニーズに応えるためには、時代に合った適切な退職金制度の導入が求められます。
確定拠出年金制度のようなポータビリティと柔軟性を兼ね備えた退職金制度の導入を含めて検討し、労働者が安心して働ける環境を整備することが重要となります。
将来に向けて持続可能な退職金制度を整備することは、人材の採用・定着率の向上につながりますので、この機会に退職金制度の見直しや、導入していないのであれば導入を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2025年3月現在の法令・情報等に基づいています。