「家族信託」の活用で共有不動産の“塩漬け”対策
不動産を巡るトラブルの1つとして、共有不動産の“塩漬け”(共有者間で方針がまとまらず、適切な管理や処分ができずに放置されている状態)が挙げられます。
そこで今回は、家族信託を活用した共有不動産の‟塩漬け”対策について簡単に紹介します。
≪不動産を共有相続する際の塩漬けリスク≫
不動産を共有相続する場合、原則として共有者一人の都合で不動産を処分(売却や解体など)ができなくなります。
なぜなら、共有相続した不動産を処分するためには、共有者全員の同意と協力が必要になるからです。
ただ、不動産の“塩漬け”リスクが顕在化、つまり不動産のスムーズな売却や建物解体が困難になるのは、単に共有者間の関係性が悪化した場合とは限りません。
関係性が破綻していなくても、共有者間の不動産処分方針が一致しない(共有者全員が理解・納得しない)場合は処分ができなくなります。
また、共有者の一部の行方が知れず、全く連絡が取れない場合も処分は難航します。
さらには、共有者の一人が大病や認知症を発症して判断能力が低下してしまった場合も、不動産の売却は非常に難しくなりますし、共有者の一人に相続が発生し、当該死亡者の持つ不動産持分につき相続人間で意見がまとまらず承継者が決まらない場合も、同様です。
つまり、高齢の家族・親族間で不動産を共有すること自体が‟塩漬け”リスクを高めてしまうことになります。
≪家族信託を活用した共有不動産の塩漬け対策≫
共有不動産の“塩漬け”リスクを回避するための有効な対策の一つが、「家族信託」です。
家族信託とは、家族等の信頼できる人に財産の管理や処分を任せる仕組みです(この管理を任せる人を「受託者」と言います)。
具体的な方法・タイミングとしては、次の2つがあります。
●共有相続発生前のタイミングで家族信託を実行する●
1つは、共有相続を未然に防ぐ方策として、老親の相続発生前から、親子間で信託契約を締結し、複数の子の中の代表者が「受託者」として老親の不動産管理(例えば賃貸経営)を担います。
老親亡き後も家族信託を継続し、引き続き当該受託者が単独で、「受益者」(信託財産の実質的な持主)となった複数の兄弟のために不動産の管理(賃料の管理と分配)を担う形態です。
この場合、相続発生により実質的には複数の兄弟が均等に不動産を承継する形になりますが、将来実際に不動産を売却したり売却代金を分配するのは「受託者」単独で実行できますので、将来にわたり共有不動産の“塩漬け”という概念は排除できます。
●不動産が共有状態になってから家族信託を実行する●
もう一つは、既に共有になっている不動産について、円満な共有関係のうちに、共有者家族の中から選んだ受託者と各共有者との間で信託契約を締結し、管理や処分する権限を一元化する方法です。
しばらくの間は共有関係を維持しながら、「受託者」が単独で管理や処分(賃貸経営を含む)をすることが継続できるので、共有者間に生じた事由に一切影響を受けずに、適切なタイミングで共有不動産を売却することができるようになります。
このように、複数名の権利(賃料収入や不動産売却益の分配など)を確保しておきながら、管理処分権限を一人に集約しておくことは、将来の不動産の“塩漬け”リスクを回避でき、長期における絶大な安心感につながると言えるでしょう。
以上、今回は「家族信託」を活用した共有不動産の“塩漬け”対策について簡単に紹介しました。
不動産の共有相続や既に共有となった不動産に関する“塩漬け”対策については、司法書士をはじめとした家族信託に精通した法律専門職に相談・依頼することをお勧めします。
老親が元気なうち、あるいは共有者が皆元気で円満な関係なうちに、将来的に起こりうる法的トラブルを回避する対策を講じることは、とても重要です。
共有不動産の‟塩漬け”対策についてご不明な方・ご不安な方・お困りの方は、まずはこの分野の専門職に相談してみましょう。