相続不動産からの賃料収入、どう分けるべきか?
自分が所有する不動産を、他人に貸すことで賃料収入を得ている人は多く存在します。
しかし、その賃貸不動産の所有者に相続が発生した場合、遺産分割協議が成立するまでの間、被相続人の賃貸不動産からの賃料収入を相続人間でどのように分けるべきかという問題があります。
今回は、被相続人の賃貸不動産から得ている賃料収入の分け方について説明します。
★遺産分割成立後の賃料収入は誰のもの?
被相続人が遺言を書いていない場合、賃貸不動産も他の相続財産と同じく、相続人全員が参加をする遺産分割協議の中でその承継者を決めることになります。
そして、賃貸不動産の承継者が決まった後、つまり遺産分割協議の成立後に発生する賃料収入は、賃貸不動産を承継(取得)した相続人が賃貸借契約の賃貸人としての地位も当然に承継するので、当該相続人が取得することになります。
一方、被相続人が遺言を残している場合には、原則、その遺言によってその不動産を取得するとされた者が、賃料を相続開始時から当然に取得することとなります。
★遺産分割協議が成立するまでに発生した賃料収入の取得
では、被相続人の死亡後、遺産分割成立時までに発生した賃料収入については、誰が取得することになるのでしょうか。
この点については、長らく裁判所においても考え方が分かれていたところでしたが、2005年(平成17年)に最高裁判所が判断を下しました。
最高裁は、まず遺産が相続開始から遺産分割までの間、共同相続人全員の共有に属するという相続の基本原則を確認したうえで、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、「相続財産」に該当せず、別個の相続人全員の共有財産であり、各相続人がみずからの相続分に応じて賃料収入の債権を確定的に取得すると判断しました。
たとえば、相続開始から遺産分割までに生じた賃料収入が100万円、相続人A、Bの相続分がそれぞれ2分の1である場合、AとBがそれぞれ50万円ずつ取得することになります。
次に問題となるのが、このような形で各相続人がそれぞれ取得した賃料収入の債権が、その後に行われた遺産分割の内容に影響を受けるかという点です。
相続の基本ルールには、『遺産分割には遡及効(相続開始の時に遡って効力が生じること)がある』という定めがあります(民法909条本文)。
そのため、遺産分割の内容によって、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権を得る人も変わるのではないかという疑問が生じます。
しかし、最高裁はこの点について、相続人が相続分に応じて賃料債権を確定的に取得することは、後になされた遺産分割の遡及効による影響を受けないと結論付けました。
確かに、一度賃料収入を得て、自分の分だと思って費消したにもかかわらず、その後の遺産分割の結果、「ほかの相続人のものとなったので、返すように」と命令されるのは不条理といえます。おそらく最高裁は、そのあたりを考慮して判断したのでしょう。
なお、この最高裁判決を前提としつつも、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議の中で賃料債権の取得者を決めることも可能であると考えられています。
★賃料収入の分け方で揉めないために
賃料収入を共同相続人の間で分けるにあたっては、遺産分割成立前の賃料収入と遺産分割が成立した後のそれとを区別して考える必要があります。
遺言によって不動産を取得する者があらかじめ決められているような場合を除き、遺産分割協議が成立する前の未分割期間中に生じた賃料収入は、原則として共同相続人全員が各自の法定相続分に応じて賃料を取得し、遺産分割協議の成立後は賃貸不動産の所有者となった相続人(賃貸人の地位を承継した者)が賃料収入を取得することになります。
実務的には、相続開始から遺産分割協議の成立まで、賃貸不動産に関する固定資産税や修繕費、管理委託手数料などの費用負担も発生しているため、未分割期間の賃料収入とその間の費用を精算することになるでしょう。
その上で、相続発生時から遺産分割協議が成立するまでの未分割期間中の賃料の取扱いについて、原則に従い法定相続分通りに相続人全員に分配するのか、賃貸不動産の承継者がそのまま取得するのか、相続人全員が納得できるような協議を進めていくのが良いでしょう。